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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
67/116

67 先生はそうして消えた

「ええ。内田は永野先生の理解者だった。永野君は内田をいじめから救おうとしていた。




しかし、いじめは実に巧妙で、生徒たちにとっての、ゲームみたいなもので、むきになって、いじめに立ち向かう方が、むしろ滑稽にすら思えた。




教師はみんな、僕もそうですが、見て見ぬふりをしていた。永野君は必死で内田を救おうとしたし、また、いじめをしていた生徒たちも救おうとした。彼らの人間性を復権させることによってね」




「そうですか」




「永野君は、しかし学校を辞めた。学校の中で、完全に浮き上がってしまっていた。それで電話相談のボランティアに取り組んだんでしょう。




それで、何か、彼はいじめに対して、何かいうべきことを見つけたのかもしれない。内田が心配で仕方なかったのかもしれない。




彼は自殺する直前にも、内田や生徒たちと会ったんです」




「同窓会ですね」




「そんな、なごやかなものではなかったでしょう。そこで永野君は、最後の絶望に辿り着いてしまったのかもしれない」




「そのときの状況を、もっとくわしく、お聞かせ願えませんか」




「僕もその場に居合わせたわけではないですけど。永野君は自分の住んでいた部屋に生徒たちを呼んで、食事をご馳走したらしい。




内田と、内田をいじめていた連中ですね。生徒たちを帰したあと、彼は何か思い悩んで、夜の町に散歩にでた。




上大岡の近くに住んでたんですが、地上げやが建物を壊してしまった空き地が方々にあった。彼の遺体はその空き地の一つで発見された。




胸ポケットに遺書が入っていたそうです」




「その、いじめをしていた連中の名前を教えてもらえませんか」




芳田は、少し沈黙した。そしていった。




「だめですね」




「どうしてですか」




「永野君を裏切ることになる」




「と言いますと」




「わかりませんか。永野君は生徒たちすべてを救おうとしていた。いじめをする生徒を罰するのが目的ではなかった。




それは、何度も何度も永野君が口にしていた。ここで、その生徒たちのことを口にするのは、死んだ永野君の絶望を無駄にすることになる。




僕からはいえない。勘弁してください」




芳田の決心は固いようだった。私は話題を変えた。




「私としては、マユミさんの死の真相を知りたいのです。誰が一体永野先生の名を騙っているのか。可能性ある人間はすべて洗い出さないと」




「わかりますが、うちの生徒たちではないでしょう。そんな、子どもだましみたいないたずら電話はしない。そんな幼稚な連中じゃない。




それに何のメリットもない」




芳田はそういって、とりつく島もなかった。何かに脅えているような感じもした。




「…これが、僕の限界ですよ。参考になりましたか?」




「ええ。ありがとうございます」




私は芳田に礼をいって、立ち上がった。学園を出ると、外はもうすっかり夜だった。私は車に乗り、オフィスへと向った。






・・・・つづく





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