表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレフォンライン  作者: 新庄知慧
64/116

64 悪質な冗談

「亡くなられた!?」




「…もう5年も前になります。亡くなられました」




「…」




私は、驚き、少し茫然として、事務机に毛が生えた程度の応接テーブル置かれた、事務机の付属品のような、花瓶の造花を見た。拍子ぬけした私の心境にぴったりな花だった。




「自殺されました」彼女は、私の瞳を覗き込むようにして、いった。




「自殺?」私はまた少し驚いた。「どうしてでしょうか。なぜ…?」




「本当のところは分かりません。何か、ひどく悩んでおられたらしいんですが。高校の教え子たちに、同窓会か何かで招かれて行って、その帰りだったようです。




自分の理想とした教育が、成し遂げられなかったことに、絶望していたんじゃないかっていう、永野さんの同僚だった先生の談話が、当時の新聞記事に出てました。




私たちは、全く、そんなこと、知らなかったし、永野さんは、そんな様子を少しも見せませんでした」




彼女は辛い記憶を呼び戻されたという顔でいった。




「少女を絶望から救った人が、自らの命を自ら絶たれるなんて、私も、社会人になったばかりで若かったし、ショックでした」




私は少しためらったが、いった。




「永野さんが、実は生きていたなんてことはないでしょうか」




彼女はその言葉を聞いて、きょとんとした顔をした。




さらに私はいった。




「いや、失礼。実は、昨日ですね、永野さんという人から、電話があったんです」




彼女の顔に私に対する警戒の色が見えた。それから間をおいて、思いついたようにいった。




「そんな。・・・いたずら電話か何かでしょうか」




私は首を傾げ、「誰がそんないたずらをする必要があるのか、私にはわからない」といった。




「私にも」彼女も首を傾げた。




「あなたは、内田亨という男の名をきいたことは、ありませんか」




「内田亨?知りません。そんな名前、聞いたこともない。誰ですか、それは」




「この人も、永野さんに、大変お世話になったという青年です。昨日、私のところにいたんですが、真夜中に永野さんから電話がかかってきて、私と話したあとで、内田と話しました」




「まるで怪談ですね」




「それで、永野さんは、マユミさんを殺した、といっていた…」




「……」彼女は眉間に皺を寄せて、私の顔をみた。「ひどく悪質な冗談です。誰が一体、そんないたずら電話を」




「永野さんの名を騙って、こんなことをする人に心あたりはありませんか?」




「全くないです。なんてひどい話…」彼女は心底、立腹したようだった。「探偵さん、そのいたずら犯を捕まえてくださいね」




「ええ、私もそうしたい。何か、思いあたることが、もし、あったら、電話ください」




「ええ」




「永野さんがお勤めされていたたという高校はどこですか」




「光聖学園です。あの、中高一貫の」




「…」




私は頷いた。光聖…。これは内田亨の母校だ。




・・・・つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ