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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
63/116

63 その人はもういない

「電話福祉相談の窓口なら、今もやっています。これから拡充しようとしています。生活保護家庭とか、一人ぐらしの老人の介護とか、色々、相談を受ける窓口ですね」




「そうですか。で、ボランティアも必要だと・・・」




「ボランティアの方じゃないんですか?」




「すみません。ボランティアではなくて・・・実は、こちらで電話相談をしていたという、永野さんのことで、うかがいたいんです」




「永野さん」




彼女は、聞き覚えのある名前だという顔をして、私の顔をみた。




私はいった。




「ご存じでしょうか。永野さん」




「お知り合いの方ですか」




「まあ、そうです。永野さんに、いのちの電話で大変にお世話になった者の知り合いです。永野さんにお会いして、うかがいたいことがありまして」




「そうですか」彼女は戸惑った様子だったが、なぜか放ってはおけないという表情をして、「まあ、こちらへ、どうぞ」と、私をカウンターの横の応接席へ案内した。




私は彼女に名刺を差し出した。「探偵」という肩書きをみて、彼女は興味深げな顔をした。




私はそれから淡々と、これまでのいきさつ・・・マユミの死、そのマユミのノートに書かれてあった永野氏に対するものであろう感謝の言葉、などを語った。




警察ざたになっていることはふせたが、マユミの母親が死んだ娘の恩人のことを知りたがっているということを話すうち、彼女は次第に熱心な顔で私に耳を傾けてくれた。




「それで、…」私はいった。「永野さんに、お会いしたくて、ここにうかがいました」




「そうですか。永野さんのことなら存じ上げています。私が就職して、初めての部署で、ごいっしょさせてもらった方です。印象に残っています。


真面目で、優しくて、いい方人でした」




彼女は記憶をほぐしながら、静かにいった。「そうですね、何度も同じ女の子から、電話があったみたいですね。それが、マユミさんだったんですね」




「多分…」




「私たちの仕事って、福祉なんて名のってますが、実態は、事務そのもので、それっきりで、人間らしいふれあいなんて、ほとんどないようなものです。やはり、ボランティアの方々には教えられることが多いです。




同じ女の子から何度も電話があったものだから、よからぬ噂をたてる人もいましたが、私は違います。永野さんは、そんな人じゃなかった」




「永野さんは、ボランティアだった」




「ええ、もとは高校の先生だったと聞いていますが、何かの事情で、お辞めになったそうです。ああいう、純粋で、生真面目な方でしたから、何か、合わなかったんでしょう。相当な進学校だったそうですし」




「で、永野さんは、今どこに?」




「残念ながら、もう、ここにはいらっしゃいません」




「どこにいかれたか、ご存じありませんか?」




「亡くなられました」






・・・・・つづく



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