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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
61/116

61 慟哭

「はい」




「そうですか。警察に、自首しますか」




「いいえ」




「なぜ」




「私は、警察につかまるの、いやですから。警察は恐いですから」




「それは困ったな」私は、内田の顔を見た。そして、いった。




「ここに、自首した青年・・・内田君がいます。あなたが自首しなければ、内田君の疑惑は晴れない」




「ほう。そこに、青年がいるんですか。これは手間が省けた。電話に出してください、その・・・内田君を。内田君に話したいことが、あります。私は、内田君が、大好きなんです」




「君と、話がしたいといってるぜ」私はそういって、受話器を内田に渡そうとした。




内田は険しく眉をつり上げて、私から受話器をひったくった。




「内田です…」




内田は電話の向こうの先生に向って、いった。電話の向こうの声が、何か言った。続いて、笑ったようだ。




私に話しているときよりも、大きな声でしゃべっていた。




「…」




内田は青ざめたまま、無言でいた。やがて、目を閉じて、震えるような表情になった。そして、重たそうに、内田は口を開いた。




「僕です、マユミをやったのは。先生、ちがいますよ、それは」




電話の向こうの声は、大声で、何か、がなりたてているようだった。「断罪」という言葉が、何度か聞こえたように思った。




「ごめんなさい、先生…」




内田はそういって、うつむいた。うつむきながら、続けて、いった。「僕をかばうのは、やめてください。もう、こんな所へ、電話したりしないで下さい」




そういって、体を、わなわなと震わせた。電話の向こうの声は、また、笑ったようだった。今度は、さらに大声で、わめくように笑っているように思えた。




内田は、ついに、感きわまった、という感じで、泣き出した。




始めは静かな鳴咽だったが、やがて涙をぼろぼろと流し、肩を上下させて、呼吸が困難であるかのように喘ぎながら、泣き声を出した。




そして、「ごめんなさい。ごめんなさい」という言葉を、2、3度、涙まじりの大声で口にした。




私は、会話の内容を確かめようと、内田のそばに寄ろうとした。しかし内田は、泣き顔をしつつも、恐ろしい顔をして、私を拒絶した。




それは近寄りがたい、身も世もないような迫力のある拒絶だった。




まるで、巣を発見され、巣の中のヒナが殺されそうになったのを、必死で守ろうとする母鳥、という感じだった。




そして、急に内田は電話を切った。




そのまま床に膝をつき、両手も床について、泣き続けた。




まるで、小学生か幼稚園児のような、歯止めのない、見ているのがやりきれないような泣きかただった。




一体何が起ったのか。私は理解できていなかった。内田の慟哭を見下ろして、しばらく、なす術もなく、そこにいた。






・・・・つづく

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