6 海の底の人
「やっぱ、インテリだったんじゃない?彼女。だから、なんか、あたしなんかには、ないようなことで、悩んじゃったりしてたんじゃないかなあ」
その、マユミの親友だったという、サオリという名の18歳の女の子は言った。光沢のある黄色いミニのドレスで、ほっそりした脚が自慢だという。人なつっこい笑顔が魅力的だった。
「というと?」
「詩の一節なんか口ずさんだりなんかしてさ。そういうときって、なんか哀しそうで」
「誰の詩?」
「名前きいたんだけどなあ、忘れちゃった。今度までに思い出しとくよ。だから、また来てね。マユミも帰ってきてるかもしれないし」
私はウイスキーの水割りを飲んだ。
「お客さん、マユミの友達って、どんな友達だったの?」
「マユミさんというより、マユミさんの母さんの友達なんだ」
「なんだ、保護者か」
「実は行方不明なんだよ。母さんも行方を知らない」
「ひょっとして、あんた、おとうさん?マユミの」
「まさか。おとうさんはいないんだ。マユミさんには」
「あ。そうだったのか」
「知らなかったの」
「全然。家族のことなんか、全然しゃべらなかったもん、マユミ」
私はサオリにもドリンクを注文した。彼女の注文は、限りなくノンアルコールに近いマルガリータだった。
「彼女、きれいだったから、指名の人はすごく多かった。ナンバーワンだったんじゃないかな、このお店で」
「どんなお客さんたち?」
「教えろっての?」
「手がかりがほしいんだ。すごく思いつめてただろ、マユミさん。もし、なんかあったら、母さんがあまりにかわいそうだよ」
「企業秘密だしなあ」
「まあ、そうだろうね」
「ねえ、このお店、どう思う?」
サオリは急に話題を変えた。まるで深海の底で女の子と酒を飲んでるような、そんな店だ。こういうのが、マユミさんの趣味だったのか?
「そう、気にいってたみたいだよ。マユミを救ってくれた人も、こんな海の底の人だったってさ」
「海の底の人?それが彼女を救った」
「その人が、海の詩も教えてくれたって」
「店のお客さん?」
・・・・・・・・・つづく




