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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
57/116

57 世の中世の中

演奏が終わり、店内には、家路につく人々、次のバンドの演奏を目当てに入店する人々の動く人の波がおこっていた。店の入り口に、それらの人ごみに混じって、内田の姿が現れた。私は手招きで内田を呼んだ。




「ずっと大学に顔を出してないそうだね」私は内田にウイスキーを注文してやり、いった。




「殺人犯が、大学になんか行っちゃ、だめでしょう」内田は他人事のようにいった。それから、話題をかえた。「探偵さん、この店にはよく来るんですか」




「ときどきね」




「僕は、うるさい音楽は、あまり好みませんね」




「それは失礼。でも、ジャズはうるさい音楽じゃあありませんよ。まあ、今日は、僕の趣味に合わせてもらいます」




「暗い音楽も嫌いですよ」




「まあ、まずは飲もう」私はグラスを彼に向けて乾杯の恰好をした。内田はそれを無視した。私はいった。「しかし、よく来てくれた。ずっと部屋に、こもりっきりと聞いてたもんで、来てはもらえないかと思ったよ」




「僕は逃げ隠れはしません。しかし物騒な世の中だな」




「どうして?」




「人を殺した人間が、こんなところで酒を飲んでられるんだから」




「なぜ、君はそう、殺人犯になりたがるんだ」私はきいた。内田は私の方を素早く向き、睨んだ。また、あの、人の心を射すくめるような、深い黒色の、美しく危険な瞳だった。




「事実ですから」内田は言葉を投げ捨てるようにして、いった。




「君、海の底の先生ってのは、君にとっても重要な人だったんじゃないのか」




「…」




内田は私を睨んだまま、表情を止めた。




「海の底の先生っていうのは、電話相談員だったそうだ。電話先生だな。海底電話かな。私にはわからない。ねえ、内田くん」




「…何ですか?」




「君はマユミを殺したりしないだろう?何かで捨て鉢になっているだけなはずだ。彼女は別の人間に殺されたんだ」




「…それは、誰?」内田はウイスキーを飲みながらいった。




「それは誰ですか?」




「宮本典雄という名前を知ってるか?」




内田の顔から血の気がひいた。




「知っているんだね?」




「知らないよ。誰だ、その人は」




「マユミの父親だ」






・・・・・・つづく

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