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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
54/116

54 科学とは幸福の科学?

「ええ、どうぞ」




五十嵐はハイライトを引出しから出して、マッチで火をつけた。紫色の煙とともに、五十嵐はまた言葉を口から出した。




「しかし、ああいうのが、理学部の大学院生の平均的な姿かというと、これも違うのです。内田は、研究室でも、かなり浮いた存在でした。




中学、高校のときに、いじめに会ってたということは、私も知ってる。それが彼の性格に影響を及ぼしたのは確かでしょう。




しかし大学生ともなると、さすがに、いじめは無かったようですがね、少なくとも僕の目からみて。




でも、最近は、会社でもいじめがあるって聞きましたが。あなた、知ってますか?」




「ええ」




「しかし、まあ、うちの大学ではそういうことはない。しかし、彼は浮いていた。研究に熱心に打ち込みすぎていた。




他の人間は寄り付けないようなところがあった。まあ、そういう生徒は、私の講座でも1学年に一人や二人はいるもんですが、彼はとびきりでしたね。




友達らしい友達も実はいなかった」




五十嵐は論文の展開を考えるような口調でいった。それから、急に口調を変えた。




「いや、あなた上手ですねえ。あなたを見てると、つい、いろいろ話したくなるなあ。警察の場合は、こうはいかなかったですよ。不思議だなあ。向いてますよ、やっぱり、あなた、探偵に」




「ありがとうございます」私は少し笑っていった。




「それでだ。つまり、内田には、確かに異常なところはあった。いじめが原因だろうけど、人間社会っていうものを、拒絶するようなところがあった。




世を捨てて、生物研究に逃避しているような感じがあった。しかし、我々の研究室は、何も世捨て人のクラブじゃない。




科学は、色々意見もあるだろうけど、結局は人間社会の幸福に役立つということが、ひとつの大きな使命ですからね」




五十嵐は言葉を止めた。「参ったな。私は、生徒にも、こんなことはいったことが無いです。科学は幸福のため、とかね。酒の席以外には。科学は幸福のため?それじゃあ、幸福の科学じゃないか。いや、失礼」




「いいえ、結構です。どうぞ、続けて下さい」




「ええ、それでね、僕は意見したんですよ、内田に。おまえ、それじゃあだめだぞ、研究者は、タコツボみたいなところに入りやすい。




それじゃあ本当の研究者にはなれない。いえ、そのころ、本当にひどかったんだな、あの内田は。落ちこんでたんでしょうか、それまでにも増して、世を怨んでるような感じでね」




「それは、いつごろのことでしょうか?」




「そうですね。あれが実験の第二段階に入ったころですから、そう、1か月くらい前かな」




「1か月前…」




「そうです。そのとき、言わなくていいこともいってしまったんだな。反省してるんです。内田がいじめに会ってたことを知ってましたからね、僕は。その話を出して、それが尾をひいてるんだろうという意味のことです」




・・・・つづく



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