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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
52/116

52 すれ違いの追跡


「それでだな、おまえにききたいんだ。あの日、間抜けな名探偵はマユミを捜してあのテーマ・パークにいたが、どこをどう歩いてたんだ」




「ふうん」私は少し考えてからいった。「その二人がいたというのと、ほぼ同じ時間に、水族館にいたよ。マユミを捜してね」




「また、すれ違いドラマだったのか」大田はいった。




私は、あの深海平原の水槽にいた初老の係員の顔を思い出した。




あの係員に、聞き込みは行ってないんだろうか。私はいった。




「かもしれない。すれ違いかも…。しかし俺は目を皿にして水族館を探し回った。しばらく水族館の入り口で張ってたよ」




「それでも、マユミはいなかったんだな。本当だな」




「嘘はいわない。不要なことはしゃべらないが」




「そうか」




大田は釈然としない顔をして、しばらく考えこんだ。




私は大田のもってきた茶に口をつけた。もう冷めてしまっていたし、それはお茶というよりも、緑色の絵の具を流した、渋い味の泥水にしか思えなかった。






・・・・






ヒマラヤスギの並木が続く道を、私はホンダに乗り、走っていた。




アスファルトの舗装をされた道を一直線に進んでいくと、大学の正門につきあたる。一般車両は通行証なしでは中に入れないはずだが、守衛も誰もいないので、私はそのまま門を通りすぎた。




広い構内には緑が豊かで、青空のもとで、きれいに刈り込まれた芝生が光っていた。




時計台のある、大学のシンボルらしい建物は、煉瓦づくりの、歴史を感じさせるものではあったが、その他の校舎は、昭和40年代の高度経済成長期に突貫工事で建てられたとしか思えない、味気のない建物ばかりだった。




理学部も味気なく殺伐としていた。私は、その、昔の公団住宅のような、5階建ての四角い灰色の巨大な箱の前に車を止めた。




大学関係者のような顔をして玄関口を通り抜けた。横の守衛室のガラス窓ごしに、濃紺の制服を着た若い守衛がこちらを見ていた。




難しそうな顔をしてこちらを見ていたが、私が通っても何の反応もなく、私を透視して、私の向こうの壁を見つめ続けているのだとしか思えなかった。




通り過ぎながら私は、この守衛は、何か哲学を瞑想する、一種の置物のようなものなのだろう、と思った。




海洋生物学講座の研究室は3階だった。




ドアをノックすると、「どうぞ」という元気のいい声が聞こえた。




扉を開けると、部屋は10畳ほどの広さで、中央に大きな実験台があり、机の上に薬品の瓶やビーカーや試験管立てがあり、正面奥の棚には生物標本の入った瓶がたくさん並んでいた。




左側の書棚には、本や書類がぎっしり詰まり、溢れそうになっていて、書棚から落ちたらしい論文集が3冊、プラスチック・タイルの床にころがっていた。




右側にデスクがあり、その上は、ちらかり放題の書類の山だった。その前の椅子に座った声の主が、白衣を着てカップ・ラーメンを食べながらこちらを見ていた。






・・・・・つづく



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