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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
50/116

50 深海に耽溺する

「僕が殺したんです。ご迷惑をおかけしました」と、頭を下げた。




「ああ、分かったよ。また調べるから、今日はさよならだ」そういって、太田は内田を促して両親の方へ歩かせた。




両親は内田を悲しそうな目でみつめ、母親は内田を抱こうとしたが、内田はそれを拒絶した。




父親はつらそうな顔をして、太田に頭を下げ、さあ、行こう、と内田にいい、内田親子は3人してそこを歩き出した。




私とすれ違いざま、内田は、私をあの美しい目で見つめ、にやりと一瞬笑ったが、すぐ悲しそうな目つきに変わった。




内田が歩き去ったあと、太田が彼に向っていった。




「や、ご足労。まあ、こちらへどうぞ」




太田は彼を取り調べ室へ招きいれた。




「俺も取り調べか」




「まあ、そういうことだ。お茶でも出すかね?」大田は立ち上がり、部屋の隅にある自動給茶機へと歩いた。「コーヒーはないんだ。あいにくと」




白いプラスチックの茶碗を2つ持って、大田は給茶機から戻ってきた。私に茶碗を渡しながら、大田はいった。




「最近は、物騒な蚊がいるもんだな。蚊じゃなくて、クマンバチたっだんじゃないのか、おまえのその傷は。大きなバンソウコウだね。




人を刺すときに、大きな音の出るクマンバチじゃないか?そういえば、おまえの事務所の近くで、今朝がた、季節はずれの花火の音が聞こえ




たっていうぜ。まだ夏休みの奴が遊んでいるのかな」




「取り調べというのは、俺のこの傷のことか?」私はきいた。




「誰かにやられたんだろう?おまえ、危ないんじゃないのか。今度の事件がらみか」




「俺はいつも危ないよ。名探偵の身は、いつも危険にさらされてる」




少し間をおいて、私はいった。「しかし、立派な建物だな、ここは。市が財政難とは、とても思えない。こんな建物をつくるより前に、もっとやることがあるだろう、という市民からの苦情は、誰がもみ消してるのかな」




大田はそれには答えず、茶をぐいっと飲んだ。




「日本茶は体にいいそうだよ。カテキンっていう物質が入ってて、それがいいそうだ。食中毒の病原菌も殺すそうだ。それでだ、内田について、もう少し詳しく聞かせてくれ。」




「少し変な学生だよ。マユミの客だった。かなり親しかったようだ。一番愛していたのは自動販売機で、深海の世界が一番落着くそうだ。




深海のことでマユミと共鳴して、あのマユミの殺されたホテル近くの水族館にも、マユミを案内したそうだ。参考になるかね?」




「自動販売機の話は知らなかったな。どういう意味なんだ」




「昼間の雑踏や人間関係から隔離させてくれるものに見える、ということらしいな。俺なりに翻訳すると。




それが、愛に通じるというわけだと思う。深海に耽溺するというのも、恐らく似た心情だ。研究室にこもってばかりいて、社会に不適応な人間になっている、ということかな。




あの美形の容姿だから、女の子にはもてるだろうし、そんなに屈折しなくてもよさそうなものだが、美しいということが、かえって彼の屈折の要因になっているかもしれない。




その屈折した心情の中で、信じられると思った人に裏切られたと思って殺したということだった」




・・・・・つづく

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