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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
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49 根も葉もないこと

「そうですか」




マユミの母は、疲れた様子の声で答えた。驚いた風でも、悲しんでいる風でもなかった。




「事態が急変しましたので、とり急ぎ、ご連絡しました」私はいった。




マユミの母が唐突にいった。




「真犯人なんですか。その学生は?」




私は少しの間、言葉を口にするのを躊躇したが、こういった。「現在のところ、彼が犯人であるという証拠は、犯人自身の証言だけです。犯人とは断定できない」




「あなたの直感は?」




「また直感ですか」




「その、内田と話した印象は、どう?」




「美しい、少年、といっていいような風貌の奴で、少し頭がいかれていて、人を殺す可能性はないとはいえない。ただ、動機が単純じゃない。普通の人には理解できない面がある」




「だから、あなたの直感は?」




「ええ。…犯人とは思えない」私は低い声でいった。「もちろん、自信も根拠もないですが・・・・」




「そうですか…」マユミの母も、低い、消え入りそうな声でいった。






その日の午後、私は太田から警察に呼び出された。




最近建ったばかりの、 市警の建物は、最新の設備を随所に備えており、壁も床もびかびかだった。警察署というより、新しい最先端のオフィスビルといった方がいい。




制服の警官に案内されて、私は取り調べ室の前の廊下へと案内された。




私を案内すると制服の警官は去った。廊下には、ベンチが取り調べ室と反対側の壁にそって、2つ置かれていた。




私から見て遠い方のベンチに、初老の夫婦が腰掛けていた。




品のいい背広姿着て、白いものが目立つが、ふさふさとした髪を、綺麗に七三に分けた、50代半ばの夫と、顔に皺が目立つが、目が大きく、丁寧に手入れされた黒い髪の、往年の名女優といった感じの夫人とであった。




それが内田の両親であるらしいことは、私には直感的にわかった。




私はその老夫婦の隣のベンチに腰かけた。少し考えたが、立ち上がり、隣の夫婦ほうへ歩き出した。




丁度そのとき、取り調べ室のドアが開いた。太田が現れた。




大田は、私の存在はまったく無視して、老夫婦に向って、いった。




「やあ、お待たせしました。今日のところは、これでおしまいです。お引き取り下さい。また、お呼びすると思いますのでよろしく」




老夫婦は、太田に深々と頭を下げた。夫人は涙ぐんでいた。




太田の後ろから、内田が現れた。内田は下を向いていた。




内田の父親が、「なんで、根も葉もないことをいって、みなさんにご迷惑をかけるんだ。あやまりなさい」と、内田に向っていった。それは、悲しそうで静かな声だった。




内田はだまったままだった。




それから少し顔を上げ、私の姿に気づいた。すると太田刑事の方を向き、いった。




・・・・・つづく



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