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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
47/116

47 悲惨な愛

内田は下を向き、ぼそりといった。




「僕は大学院に今いるんです。いろんな実験をやってまして、いろんな薬を使います。青酸カリなんて、簡単に手に入るんですよ」




私はいった。「シュガーレス・チョコレートの自動販売機なんて、あったかな?」




「僕はマユミとつき合ってたんだ。ユカリにきいても、サオリにきいてもいい。まだ調べはついてなかったのかな。マユミといっしょに、あの水族館の深海平原の水槽にもよくいったよ」




「水族館のおじさんは、マユミ一人で来てたっていってたがな」私はコーヒーを飲みながらいった。




「あの水族館をマユミに教えたのは僕だ。僕の専攻の世界なんですよ」




「海洋生物学?」




「深海のね」




「マユミも深海の世界が好きだったのかね?」




「好きだったよ。まるで自分の故郷のように愛していたよ。僕が自動販売機を愛するようにね」




内田はうつむきながらいった。




「なぜ、殺しを告白しにきたんだ。それも、わざわざ僕のところに」




「前段の質問は、良心の呵責からさ。後段の質問は、あんたが鋭そうだからさ。聞き込みに嗅ぎまわって、いろんな人に迷惑がかかっちゃいけないと思った。僕は僕の殺人を、きれいに完結させたかった。これは僕とマユミの問題だ」




「君の殺人の動機は何?」




「愛だよ」




「どういうこと?」




「マユミは僕の愛を理解しなかった。僕の愛する自動販売機のことを理解しなかった。僕は自分の孤独から逃れたかった。




僕の愛を理解する人を求めていた。自動販売機に対する愛をだ。僕のこんなにも悲惨な愛を理解する人をだ。マユミは理解者だと思った。




僕はマユミを理解者だと信じて、いっしょに深海平原も旅したんだ。しかし、彼女は、昼のでれでれやぎらぎらやぶくぶくや、それといっしょだった」




内田は声をつまらせて、暫く声が出なくなった。そして目を涙にぎらつかせながら、しゃっくりするように再び言葉を吐き出し始めた。




「わ、わかる?僕が何をいっているか?探偵さん、わかる?僕の故郷とか、僕の愛とか、マユミのこととか?わ、わかる?」




私は少しの間、目を閉じた。そして、ふっと目を開けると、タバコに手をのばした。




内田はまた下を向き、しゃっくりをするようにして、たどたどしい笑い声を出した。




私はきいた。




「あなたは、海の底の先生って知ってる?」




内田は黙ったままだった。私はさらに問いかけた。




「海の底の先生だよ。マユミの恩人らしいんだよ」




・・・・・つづく



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