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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
46/116

46 犯人は自動販売機を愛している

内田は部屋を見廻し、割れた照明器具やチョコレートの固まったような色のソファーや大きなバンソウコウの貼られた私の顔を見て、少し驚いた表情をしながら歩み入り、私の向かいの椅子に座った。




「この部屋で、喧嘩でもあったんですか…」内田は尋ねた。




「まあね。私の仕事は、危険な仕事ですよ」私は悠然としていった。「わざわざおいでいただいて、ありがとう。さっそく、話を聞かせて下さい」




内田は私の顔を見直して頷き、ゆっくり口を開いた。




「マユミが死にましたよね」




「ええ」




「その犯人、知ってるんです、僕」




「…」




私は内田の顔を見つめた。そして内田はいった。




「それ、僕なんです」




「何ですって?」




「僕が犯人。マユミを殺したのは、僕なんですよ」




「そうですか…」




頬に鈍痛が走り、私は気のぬけたような声を出した。




内田は口を開いた。




「あなたは人を愛したことがありますか?」




私は頬の痛みが増したように感じたが、その問いに答えた。




「もちろん」




「誰を?」内田は私の目を見ていった。




「妻だ。本当に愛していた」と私はいった。




「過去形?今は愛してないんだ」




内田はふてぶてしくいった。私は問い返した。




「あんたは?誰か愛したの?」




「もちろん」




内田は笑って、いった。そして、透明なまなざしで、続けていった。




「僕が愛してるのは、自動販売機なんです」




私は静かに内田を眺め続けた。内田は言葉を接いだ。すこし力がこもったような口調だった。




「夜の自動販売機が大好きですね。昼のきらきらや、でれでれや、ぐだぐだや、そんなのが皆んななくなって、夜の街かどに、すっくと立っている自動販売機。




冴え冴えした気持ちになる、あの光。冷たくって、水銀みたいに頭の痛くなる蛍光燈の光。いいなあ。




いくら語りかけても、何もいい返さない青い白い赤い光だよ。




僕は夜の自動販売機のことを思い出すだけで、勃起して、射精しそうになる。愛してる」




内田は目を輝かせて、私に言葉をたたきつけた。




私は言葉を受けて、言葉を投げ返した。




「コカコオラの販売機?それとも、ファミリープランの奴でもいいの?」






・・・・・つづく



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