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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
45/116

45 美少年

私は仰向けに倒れたまま目をさました。




天井の白い色が最初に目に飛び込んだ。薄い蒼白い光が部屋に射し込んでいた。頬のあたりに鈍痛が走った。




目を動かすと、天井に備え付けの、平らな丸い照明器具がこなごなに砕け散っていた。




頭を起こして壁の時計を見た。午前8時だった。頬に手を触れると出血は意外に少なかった。




起上がり、ソファーに手を触れると、固まった血液の感触があった。蛋白質の焦げたような臭いがした。硝煙の香りがまだ残っているような気がした。




立ち上がり、救急箱を取り出した。オキシフルで頬を消毒し、脱脂綿でぬぐった。鏡に顔を写し出してみると、頬に焼火箸をあてがわれたような溝が、赤黒くただれていた。




ひどく痛んだが、この程度の傷なら、蚊にさされたほどのものだよ、と自分に言い聞かせた。




しかし良く眠ったものだ。疲労していたせいだ。そして変な男の相手をして緊張して、ビストルのお世話になった。あいつはまさに変態だった。




脱脂綿に軟膏を塗り、頬にあてて大判のバンドエイドを貼った。粉々に砕けて散らばったコーヒー・カップのかけらを拾い集めて、不燃ゴミを入れるプラスチックの箱に入れた。




窓を開けると、霧雨がまた降っていた。暗く青黒い空を眺めた。




キチンに行き、コーヒーを入れた。




ブラックで飲みながら、タバコに火をつけた。頬の鈍痛はまだ続いており、頭の底のほうで、海鳴りが鳴り止まない気がした。そうこうするうちに、もう9時に近かった。








オフィスのドアを叩く音がした。






私は身を固くした。ドアの方を見ると、曇りガラスの向こうに人影が見えた。




頬の傷を押さえ、やれやれ、と私は思った。立ち上がってデスクに寄り、引き出しを開け、その中に手を入れた。




どうしたものか、少し迷ったが、ためしに声をあげた。「鍵はあいているんじゃない?」




ドアの向こうで声がした。




小さくて何を言っているのかわからなかった。続いて扉が開いた。




ややゆっくりと、しかし頭の奥で海鳴りのしていた私にとっては、それは、あっと言う間に開いたとしか思えなかった。




そこには、黄色いシャツに、クリーム色のズボンをはいた、痩せた美少年が立っていた。




「おはよう」




美少年はいった。




「やあ。あなたは…」




私はとっさに美少年の名前が頭に浮かばなかった。




「内田です。お久しぶり」




目に少し笑みを浮かべて、内田は会釈した。




「ああ。まあ久しぶりです」私は引き出しを机に押し込みながらいった。「ご用ですか、僕に」




「ええ。マユミの件でうかがいました」




「マユミさんの件で?何でしょうか。まあ、お入り下さい」






・・・・つづく



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