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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
42/116

42 手をひいてください

オフィスに戻り、ソファーに身を投げ出した。




今日はこのマユミ事件にかかりっきりだった。コーヒーを入れて、飲みながら留守番電話のテープをまわした。




電話をかけてくる相手に対して、今日は終日捜査で外にでているので居ない旨のことを告げる声を録音しておいたが、それでも留守電には、急ぎの用事だからといって、3件の事件に係る声が録音されていた。




それらの声の要点をノートにまとめ、パソコンのスイッチを入れた。




ディスクに入力する必要があると思われる事項についてはパソコンにファイリングしておいた。ついでにインターネットの自分のホームページのメール受けを開いた。こちらには何も届いていなかった。




もう夜だった。窓を開けると、まだ霧が消えないでいて、街の夜景はおぼろげな記憶のような、心もとないものに見えた。




オフィスのドアをノックする音が聞こえた。




はじめは力なげに3回叩かれ、次に強く2回叩かれた。




ドアの曇りガラス越しに、男の影が見えた。私はどうぞ、と言った。




扉が開き、背の高い男がそこに立っていた。180センチくらいだろうか。年齢は30前後だろう。




季節的にはまだ早いと思われる薄い緑色のトレンチ・コートを着込み、両手をそのコートのポケットにつっこんでいた。




いまどき珍しいソフト帽をかぶっていて、帽子の庇の影で表情は見えにくかった。




顔は痩せていて、かまきりのような印象であり、色は浅黒く、ニグロと日本人の混血児かと思わせた。




「ごめんください」




と、その男はいった。




「お願いがあるんです。まだ、よろしいでしょうか」




「ええ、どうぞ」




もう営業時間外だったが、とりあえず私はその男を招き入れた。男はゆっくりと私のオフィスに足を踏み入れ、私の目の前の椅子に座った。




「やあ、こんばんは」男は帽子をとって挨拶した。




「ご用件は?」私はきいた。




男はいった。「実は、俺の真紀子から、手をひいてもらいたいんです」




私は男の顔をみた。男は無表情で、それどころか生まれたときから一度も表情を顔に現わしたことがないように見えた。




「真紀子といいますと?」




「影山真紀子ですよ。あの人が、探偵と不倫しているという知らせを受けました。あなたがその探偵だというんです。




娘の自殺を殺人事件に二人で仕立て上げて、乳くり合ってるっていう通報があったんです。私は真紀子を愛している者です。




あなた、奥さんはいないんですかね?手を引いてください真紀子から。真紀子は幸せの薄い、かわいそうな女です。




私はこれ以上、真紀子があなたにだまされたら、逆上して、何をしでかすかわからない」




「何ですって。誤解ですよ、それは」私はいった。




「手を引いて下さい」男はいった。




・・・・つづく

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