41 霧のパーキングエリア
車の中に入り、携帯電話のスイッチを押した。車窓を見ると、真っ白な霧の海に閉じ込められたと感じた。電話の向こうから、男の声が聞こえた。
「もしもし?ああ、やっと通じたな」
「どなたです?」
「河合ですよ」キャバクラのマユミの客だった男の声が勢いよくいった。
「宮本マンションに来たっていうのは、あなたでしょ?僕はあの物件に係る融資を担当してたんです。さっき行って、管理人さんと話したんですがね、来客っていうのが、あなたがそっくりだから、気になって電話したんです。あなたでしょ?マユミの調査の関係なんですか」
「そうです」
「あのマンションが、何か関係あるんですか、マユミと」
「そう。彼女の義理の父親が、そのマンションの所有者だったんです。おたくの銀行が、彼に融資していたそうですね、マンションを担保にして」
「そうです。貸し付け金は返ってこなかったから、任意競売で落としましたよ。宮本さんは、結局だめだったみたいで…。しかし驚いたな、あの宮本さんが、マユミの父さんだったとは」
「義理の父親です」
「マユミはまだ見つからないんですか」
「死にました」
「え?」
「自殺かどうかわからないんですが、とにかく死にました」
「そんな…」
しばらく河合は絶句した。私はいった。
「宮本さんの住所、分かりませんか」
「分かりますよ。宮本さんが怪しいんですか」
「参考人ですね、重要な」河合から宮本の住所を聞き出した。しかし、それはあの根岸の競馬場の近くの住所だった。
その住所をきいて、私はいった。
「ありがとう。しかしここはすでに当たってみました。もう引っ越されたみたいです」
「そうですか。それは残念。しかし、宮本さんの情報は、また入るかもしれません。うちの銀行とつきあいはまだありますから。何かわかったら、連絡しますよ」
「ありがとう」
「しかし、あのマユミの父親だったとは、驚いたなあ。しかし、面白い…といっちゃあ失礼かな。不謹慎ですね。でも、面白いな。何かあったら、また連絡しますよ。今はどちらにいらっしゃるんですか?何の調査なんですか」
「マユミの実の父親と会いました」
「そうですか。まあ、がんばってください。僕もマユミに代わる接待役を捜すことにします。ああ、また不謹慎な発言だな。ごめんなさい。ではまた」
電話は切れた。
私はイグニッション・キーを回し、ホンダを目覚めさせ、霧の駐車場に別れを告げた。
・・・・・つづく