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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
40/116

40 生まれていたはずのない子

「いいんですか?」




私は篠原を見つめていった。




「真紀子さんからは、別にあなたとマユミさんの関係を取りざたして、どうこうするということは依頼されていません。それは本題ではないんです」




「警察を呼ぶぞ。名誉毀損だ」




「結構です」




私は落ち着きはらっていった。篠原は私のことを鋭い眼光で、じろじろと見つめ続けた。篠原はしばし沈黙したが、薄笑いを浮かべていった。




「そうか。確かに私は真紀子と関係したよ」




私はじっとしたまま、篠原を見据えた。




「しかし彼女が言い寄ってきたせいだったんだ。私は堕ろせといった。知り合いの産婦人科なんていくらでもいるからね。




それで、それっきりだ。真紀子は去った。どこへいったか知らん。その子が生まれていたなんて、私は全く知らない。




彼女が生んだというなら、それは彼女の勝手だろう。それは不幸というものだ、生まれる子にとって。私は堕ろせといったのだ」




篠原は表情を全く変えずに、カルテを読み上げるように淡々としていった。




「最近、マユミさんや真紀子さんに会ったことは?」私はいった。




「あと3分。会うわけないでしょう、真紀子は何をしているのか、どこにいるのか知らん。マユミ?そんな子が生まれていたなんて知らんよ、私は。




ねえ、君これは本当だよ。誰でも1度や2度、ああいうことはあるだろうと私は思うね。妻以外の女性と関係するようなことはね。




君だってあるんじゃないか?いや、失礼。まあ、その子が死んだというのは、それはお気の毒だ。




しかし、私には全く実感がないのだよ、生まれていたはずのない子なんだから」




「これがマユミさんです」私はマユミの顔写真を見せようとした。




「結構だよ。見たくない。あと1分だ。捜査には協力するさ、しかし警察にまず言うさ。警察が来たらね。君の目的は何だ。




ゆすりではないのか。では、全くわからん。人の死因を探るなんて君の仕事ではないだろう。まあ、とにかく協力はする。




今だって、最大限協力している。何も知らないというのが、私の正直な答だ。これ以上何もない。ことを荒立ててほしくないね。




私のこの地位とか立場のことは分かるだろう?」




「さっき、今、独身とおっしゃいましたね」




「それがどうしたんだ。あと30秒。妻と別れたから独身だよ」




「真紀子さんとのことが影響したせいですか?」




「ああ、そうだ。妻が勘づいた。それで上手く行かなくなった。息子を連れて妻も去った。もう15年も前の話だ」




「そうですか。とにかく、真紀子さんはマユミさんのことをとても愛していらっしゃいました。




あなたのあと、だんなさんになった方は酷い方だったようで、母子ともに大変なご苦労をされたようです。それで、あげくのはてに、今回の娘さんの死です。




警察も、実はろくな捜査をしそうにないんです。私は警察に知り合いがおりまして、どうもそうらしい。真紀子さんは悪いことに職業がら警察嫌いです」




「何をやってるんだね、真紀子は」




「風俗関係です。ソープです」




「ソープって、あの、ソープランドかね。あきれたな。何だそりゃ。まあ、あなたの話は分かった。




心当たりのことがあったら、連絡するから、もういいだろう。30秒超過だ。これから会議なんだ。ひきとってくれ」




私は応接室を後にした。エレベーターで1下に降りて、ロビーを出た。霧雨はやんでいた。代わりにヨコハマには珍しい濃い霧がたちこめていた。




駐車場に行くと、私のホンダは霧の海に没してしまっていた。ミルク色の空気の中をさまよい、ようやく自分の車にたどりついた。




ドアを開けると、携帯電話のベルが悲鳴のような音をたてていた。






・・・・・つづく



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