4 娘の名は
失踪した娘の名は、影山真優美。18歳。
依頼人の置いていった顔写真を見ると、母親に負けず、美しい少女だった。
明るく微笑んでいたが、どこか淋しい影を感じるのは、こちらの思い過ごしだろうか。
青い海の底からやってきた、人魚を連想させる。
母の名は影山真紀子。36歳。
ずいぶん年若くしてマユミを生んだのだ。ソープランド嬢で、マユミの実の父とは別れ、28のときに結婚したが、結婚生活5年、3年前に離婚。
こんな家庭環境で育ったマユミは、エリス女学院中学に入った。
中学高校一貫教育の女子教育の名門だ。相当成績が良くないと入学できないはず。家庭事情も入学の条件になる。
あの女の職業からして、入学は難しい。本当にあの高校の生徒だったというなら、何か仕掛けを使ったのかもしれない。
高校を中退した理由。学校の雰囲気に全くなじめなかった。友達もいなかった。そこへ、母には分からないきっかけがあって、そうなった。
そしてキャバクラ勤め。店の名はマリンスノー。場所はヨコハマの海寄りにある繁華街のはずれ…。
電話のベルが鳴った。
受話器をとると、せわしない、しゃがれた女性の声。今日の一人目の客の、老婆だった。
その後の夫の行状をつけ加えて報告してきた。
「静かな老後が送れなくて、本当にお気の毒です」
と私はいった。
浮気、失踪、浮気、この繰り返し。人々は、うわついたり、離れていなくなることばかり考えているみたいだ。
ソファーに身を沈めると、急速な眠気に襲われた。
抵抗むなしく、私は眠りの沼の底へ急降下していった。
・・・・つづく