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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
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38 マユミの実父

それから、携帯電話をかけた。




「副医院長の篠原先生は、今日はおいででしょうか。ご家族の知り合いのものですが、ぜひ、お知らせしなくてはいけないことがあって」




電話の受付は、私の言うことを容易には信用しなかった。金属的な冷たい女性の声だった。




午後は医局の会議がいっぱいにつまっている。とにかく、今日会うのは難しい、という意味のことを繰り返しいってくる。埒があかない。




私は電話を切った。エンジンをかけて、発車した。






マユミの実の父である篠原は、若い頃彼が勤めていたのと同じ病院に、副医院長として戻ってきていた。医学関係の紳士録から、篠原の所在は容易に知ることができた。




その病院は、かつてあった場所から港湾の再開発地区に移転していた。




高速道路から、その再開発地区に林立する高層ビルが見えてきた。




霧雨の中に細長いダーク・グレーの墓石のようにしてビルが存在していた。まだ開発は途中だが、おりからの不景気で、予定されていた事業はのびのびになっている。




ビル建設予定地の広大な空き地が広がっていた。その海よりのブロックに、楕円形の柱を二つに割ったような形の20階建てのビルが孤独そうに屹立していた。




ホテルかオフィス・ビルにしか見えないが、それが篠原が副医院長を勤める病院だった。






病院の駐車場に車を滑り込ませ、車から降りて病院の入り口へと向った。自動ドアが開くと大きな、ホテルのロビーのような空間だった。




銀行のキャッシュ・ディスペンサーに似た機会が10台並んでいた。受付がすべてカードで行われる仕組みなのだろう。




診察時間はもう終っており、巨大な空間には誰もおらず、SF小説に出てくる何かの施設に突然飛び込んだ気がする。




「何かご用ですか?」




マイクを通じた女性の声がした。




見ると天井の隅にテレビカメラがあり、スピーカーが仕掛けられていて、それが私を見て、しゃべっていた。




私は用件を告げた。




こんな仕掛けのビルディングとは知らなかった私は戸惑ったが、さっき電話で話したのと同じような言葉しか浮かんでこなかったので、再生テープのように、同じことをしゃべった。すると答はやはり、先ほどと同じようなものだった。




「では、いつでしたら、ご面会いただけるんでしょうか」




勤め先で面会するのはやめて、自宅に連絡しようかと思いつつ、尋ねた。しばらくマイクは沈黙した。1分ほどして「少しお待ち下さい」とマイクはいった。




もう、「少し」なら私はとっくに待たされている、と思った。




観葉植物の植木鉢が置かれた横のベンチに、私は腰掛けた。タバコを吸おうとしたが、禁煙であるらしく、灰皿はなかった。タバコを口にくわえたまま、火をつけずにしゃぶっていた。




・・・・・・つづく





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