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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
34/116

34 歴史を旅するスタンド 

宮本の家は、根岸の森林公園の近くだった。




もとは日本で最初の競馬が行われた競馬場だったその森林公園には、いかめしく古めかしいスタンドの建物が、今でも残っている。




日本ではお目にかかれない、西洋風の不思議な建物で、曇天のもとに、歴史を旅する大きな船のようにしてそそり立っていた。




私はその建物を横目で見ながら車をとばし、折れ曲がり上下する丘の路地を通り抜けた。






ショートケーキのスポンジのような色をしたアパートの前に車をとめた。




3階建ての煉瓦造りで、建築されたのは10年前というところだろうか。1階には2つのドアがあり、その左側の前に、1本脚の郵便受けが玄関口立っていた。




郵便受けには、マジックインキのなぐり書きで、MIYAMOTOと書かれてあった。玄関には表札がなかった。




私は呼び鈴を押した。しかし何の返事もない。




ドアのノブに手をかけたが、鍵が閉まっていた。




もう一度ベルを押した。しかし応答はない。彼はあきらめて、車へ戻ろうとした。




そのとき、ドアの向こうで水の流れる音がして、人の歩く音がかすかに聞こえた。私はドアに近寄りなおし、耳を傾けた。




ノブをまわす金属的な音がして、ドアがゆっくりと開き0センチくらい扉が開いた。




中からこちらの様子を伺う人影が見えた。




「すみませんね、ちょっと、家の中を見とこうと思いまして、先に中に入ってたんです」




人影はそういい、さらに扉は開き、「岩田さんですね」といった。




人影は男で、ずんぐりした体格の頭の薄くなった中年だった。そして「あれ?」と、その中年男は声をあげた。




私はその男の名前を思い出した。山瀬一郎。そうだ。マリンクラブの客だ。




「なんだ、探偵さんじゃないですか」山瀬はいった。




私は山瀬に向っていった。




「これはどうも。こちらは宮本さんのお宅じゃないんですか」




山瀬は少しの間口を閉じ、彼の顔を見て、いった。




「ええ、そうでした。でも、宮本さんが、お出になったんで。まさか岩田さんって、あなたじゃないんでしょうね。あなたは、確か、なんとか村さんだったね」




「玖村です」




「そう、玖村さんだ」




「宮本さんはお出になったっていうと、引っ越されたんですか」




「そうです」




「あなたがどうしてここに?」




「私どもがこのアパートの管理を任されてるんです。次の入居を希望されてる方が今日、いらっしゃるんで、私がここに」




「で、便意を催して、我慢できなくなってトイレに入られた・・・・」






・・・・・・つづく

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