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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
33/116

33 走れセールスマンの死

「ええ、まあ」




私はチラシを裏返しながらいった。チラシの表には、マンハッタンの夜景と、夜空を飛んでいるヨットと、サラリーマン風の男が描かれていた。




あまり上手な絵とはいえなかった。「走れ、セールスマンの死」という、その時の芝居の題名が書かれていた。




あまり私の興味をそそる題名ではなかった。




「今、宮本さんは何をしているのでしょうか」私はきいた。




「職は転々としているようですね。アルバイトを次から次へと。でも食うには困らないみたいなんだな。資産家のようです」




「というと?」




「親がアパートかマンションを1棟だか2棟持ってたようで、親は3年くらい前に死んだそうですが、その家賃収入があるらしい。結構な身分ですよ」




「劇団とは、もう全くつながりは無いんでしょうか」




「たまに、現れますよ。来てほしくないんだけどね。ふらっと、現れますね」




「最近では、いつ?」




「ひと月か、ふた月前ですね。劇団の女の子たちをからかいに来るんですよ。こっちとしては、迷惑な話だ。まあ、昔みたいな目茶苦茶な遊び方はしないですが。あいつも歳なんでしょうから」




主宰者はまた時計をみた。失礼、と言って、部屋を出て廊下た。廊下にある電話をかけに行った。




怒鳴り声が聞こえた。だめだ、という言葉が3回、命をかけろ、という言葉が5回聞えた。しばらくひそひそ声が続いた。




私は棚へ近寄った。この、きいたこともない劇団の、公演チラシらしいものが乱雑に並べられていた。私の心をつかむような題名や絵は何もなかった。




「いや、失礼、どいつもこいつもたるんでて」主宰者は部屋にもどってきて、いった。




「練習の時間ですね。そろそろ失礼します。宮本さんが現れたら、連絡いただけませんか」




私はいい、宮本の住所を聞き出した。




今もここに住んでいるかどうか分からないと主宰者は言いつつも、劇団員の住所録を彼に示した。




私は礼をいい、その稽古場を後にした。




階段を上り、1階の廊下を歩き、出口の扉を開けると、車の排気ガスとアスファルトの道に舞い上がる埃の臭い、電車の走る音、ものうい午後の灰色の空気がどんよりと私を包み込んだ。




私は劇団の稽古場のあるビルの裏路地に駐車しておいたホンダのドアをあけ、運転席に座り、主宰者から聞き取った住所と電話番号のメモを見直した。




携帯電話でその電話番号にコールしたが、誰もでない。もう一度住所を確かめ、私は車をスタートさせた。




・・・・つづく



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