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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
30/116

30 マユミの「時間と言葉」

赤と黒のグレンチェックのアルバムを開くと、1ページ目は丸いふっくらした顔の赤ちゃんが笑っている写真だった。




赤ちゃんの成長の順に、スナップが次々に現れた。みるみる美しい可憐な少女へと育ってゆく。




悩みや翳りとは無縁の写真たちだった。明るく微笑んでいる、いくつものマユミの顔があった。




マユミの母の真紀子が、コーヒーを銀色の盆にのせて持ってきて言った。




「勿論、警察には見せてませんよ、これ。あいつらは、遺書はないかどうかの確認に来ただけです。あとは下らない暇つぶしをしていっただけです」




マユミが母といっしょに1か月前まで住んでいたこの家は、繁華街からは車で30分ほどの閑静な住宅街に建つ小さな2階建てだった。




付近に住んでいるのは、ほとんどが東京に勤めるサラリーマンだった。真紀子の職業には、およそ似つかわしくないような場所だった。




山手の丘の上のレストランから、早速、マユミの死因を探るための資料を求めて、真紀子の家へと向ったのだった。




「マユミさんのノートというのは」私はきいた。




「これです」




真紀子は、マガジンラックから明るいブルーのノートを取り出した。




ノートを開くと、最近の女の子の丸い文字とは異なる、ペン習字の手本のような奇麗な字が並んでいた。




日付の入った日記のような文章もあれば、詩も書かれていた。




思い立ったときに、起った出来事や心に残ったことを書き留めておくメモのようなものだった。




母親のいうページを開くと、前向きに人生を歩もうという趣旨の文章がつづられていた。




しかし前の方のページをめくると、彼女にしては乱暴な字で、こんなことも書かれてあった。






「あいつが現れて、私の人生は地獄になった。私は世界のすべてを呪う」






「…これは、彼女がいくつぐらいの時のノートなんでしょう」と私はきいた。




「中学生の頃だと思います。でも、ずっと大事に持っていたらしくて、最近書いた文章もあるかもしれません」




「ページの順が、時間の順というわけでもないようですね。余白に時々書き込みがあったりする。このノートの存在をお母さんが知ったのはいつですか?」




「マユミの死ぬ2日前です。もしかしたら帰ってるんじゃないかと思って、あの子の部屋を見にいって」




「少し、お預かりしてもいいですか」




「どうぞ」




「それから、お父さんのこと。もう少し詳しく聞かせて下さい」




・・・・・・・つづく



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