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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
29/116

29 低く嗚咽する声

マユミは小学生だった。マユミはとっても勉強ができた。あの中学を受験して受かりました。




私は職業を隠して、あの馬鹿男といっしょに学校の面接にも出ました。




学校には少し疑われたけど、私も必死でお願いしたし、第一、マユミの成績は抜群だったんです。無事に入学できた。




父親を知らない彼女は、でもどっか影があったんでしょう。それに親の職業がよく分からない、同級生たちと話が合わない、孤立した。




でも勉強はずばぬけて出来た。それで、また孤立した。みんなにいじめられた。でもがんばった。そんなときに、あの馬鹿男がマユミを犯したんです」




「…」




「劇団の練習から帰った夜、ウイスキーを浴びるほど飲んで、マユミにのしかかった。前々からマユミを見る目が変だったって、あとで気づいたけど遅すぎた」




彼女の頬を涙が流れた。「辛くても、あんなにがんばってたマユミを」




少しの間、彼女は言葉は途切れ、静かに泣いた。




「…ごめんなさい。泣いても始まりませんね。でも、しばらく、あの子は、あんなひどいことがあったことを言わなかった。




そのうち、つわりが始まって、馬鹿な私にも分かった。その前後です、マユミがものすごく落ち込んで、自殺しようとしていたのは。




でも、マユミは、あの馬鹿男のことを、ののしったりしなかった。どうしてだったんだろう、マユミ…」




「その頃、いのちの電話の先生に出会ったんですね」




「そうでしょうね」




「その、父親とはどうなったんですか」




「勿論、たたき出しました。ヒモですから、あんな奴。弱い男ですよ、あんな奴」




「その後、電話の先生のおかげで、彼女は立ち直っていった…」




「そうです。あんなことがあったのに、立ち直ったんです。もうあの子は自殺なんかしないと思います」




「そうですね」




私は彼女を見つめたまま、いった。「大変申し訳ありませんでした。辛い過去のことをしゃべらせてしまって。死んでも他の人には言いません」




しばらく沈黙が続いた。




夜空には本当にまばらな星しか見えなかった。星のない夜空を眺め見て、私は漠然と、マユミは無事に天国へ昇天できたろうか思った。




ハーバー・ホテルのベッドの上で、やわらかな日の光に照らされていたマユミの美しい静かな死に顔を思い出した。




真紀子の低く鳴咽する声が聞こえた。






・・・・・・つづく



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