25 探偵の直感を述べよ
車は闇夜へ浮上するように、軽々と山手の坂を登った。ネオンの街が後ろへ音もなく遠ざかってゆく。
公園の駐車場に止まると、真紀子は緑色のハンドバックからタバコを出した。車の窓を開けてタバコに火をつけた。
夜の公園は、がらんとしていて、持主に忘れ去られたとしか思えない古ぼけた黒いバンが1台駐車しているだけだった。
港の夜景に底から照らし出された夜空に、星がまばらに光っていた。黒い樹木の影が駐車場を取り囲んでいた。
私の電話を受けて、真紀子はこの車で私のもとに現れた。
話はドライブしながらしようと有無を言わせぬ調子で誘われた。言われるままに車に乗せてもらい、ここまで来た。
しかし、発車して後、ここまでの2人は何も言葉を口にしていなかった。
私が口を開いた。
「おわびします。役に立てなくて。これはお返しします」彼女から受け取った手付け金を差し出した。
「まず、捜査の結果を教えて下さい。マユミについて、どんなことがわかったですか」
手付け金も私も見ず、真紀子は前を向いたままいった。
私は捜査を開始して4日間のことを手短かに話した。マリンクラブ、マリンクラブの客たち、ハーバー・ホテルを指示した手紙のこと。
「結局、何も成果なしでした。娘さんは亡くなってしまった」
私は頭を下げて再び謝った。
「これで私もお払い箱です。お返しします」札束の袋を真紀子の手に渡そうとした。
真紀子は煙を静かに吐き出しながら、身じろぎもしなかった。表情もなく遠くを見ていた。そして突然いった。
「マユちゃんは、殺されたんですか」
「自殺の線が強いと、警察は言ってます。あの、現場にいた刑事から電話がありました」
「自殺?」
「あるいは、事故死かもしれないと。殺人の線は薄いようです。いずれにせよ、警察も本当のところは何もわかってないでしょう」
「何で死んだか、全くわからない・・・!」
彼女は頭をふり、肩を落としていった。
「真相を究明するには、警察にも協力しないと。あの刑事も、あまり愛想がないかもしれませんが、真面目にやってくれます。
私は、最小限のこと以外は何もしゃべってません。仕事の上で知ったことは、決していいません。
でないと、依頼人の秘密を守るという契約に違反します。
マユミさんの死因の究明には、あなたの口から手がかりを提供してやる必要があります。
もちろん私も、あなたの許可があるなら、あの刑事が言っていたように、市民として協力します」
真紀子はそれには答えず、いった。
「マユちゃんは殺されたんでしょうか」
「それは…」私は首をひねった。
「探偵さんの直感ではどうですか」
強い口調で彼女は訊ねた。
・・・・・・つづく