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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
22/116

22 海はぎらりと光る

「そんな感じはする。嫌いなのかも知れない」




「水商売なのか」




「ああ。そうだ」




「どこで働いてるんだ」




どうせ調べれば分かることだと思い、私はマユミの母の勤め先を告げた。大田は軽く頷いていった。




「ほう。母親の商売がそれで、よく、この子、よく名門女子高校に入れたもんだな。この子に関する調査結果は他に何かないのか」




「ない。さっきもいったとおりだ」




大田はまた私を睨み、しばらく黙った。私は澄んだ目で大田を見返した。大田がやがて口を開いた。




「まあいいさ。とりあえずは。しかし、おまえの守秘義務とやらに抵触しない範囲で、捜査には市民として協力してくれよ。




おまえだって、痛恨の思いだろ、あんな美少女が死んで。捜査が進んだら、こちらも警察として教えられることは教えるから。




協力してくれるな?」




「当然だ。私は立派なヨコハマ市民だ。おまえこそ、真剣に仕事してくれよ」




「当然だ。しかし、ご立派なヨコハマ市民と、あの警察嫌いの母親の協力が、捜査の障害になるかもしれないがなあ。じゃあな。今日のところは去って結構だ」




私は部屋を出て、ホテルのロビーへと降りていった。




ソファーに中年の私服刑事とフロントマンが向かい合って座っていた。




私服刑事は質問をしては、結果を手帳に書きつけていた。




数人の野次馬らしいホテルの客たちが、ロビーのそこかしこで、ひそひそ話をしていた。




フロントには、あの丸い眼鏡の髪の長い女性が、やはりボーッとして立っていた。




彼女のもとへと歩み寄り、私はいった。




「チェック・アウトお願いします」




「あ、どうも。ご苦労さまでした」




「そちらこそ。こんな場合も時間超過の料金がいるんですかね」




「はあ。いいんじゃないかと思うんですが、通常料金で。でも私の一存では」




「また上の方と相談して下さい。待ってますから。僕はどうしよう。また屋上に行ってくるかな」




そういいながら、くるりと振り返り、フロントに寄りかかってロビーと窓の外の海を見た。




ロビーの中の少しばかりの喧騒の向こう、窓の厚いガラスごしに、午後の陽射しのもとで海が鈍い青色に光っていた。ねぼけたマリンブルー。




私にはまた、自分の無能に対する、無念の思いが湧き上った。




母親に本当にすまないことをしたと思った。




マユミの安らかな死顔を思いだし、なぜ、あんな子が死ななければならないのかという、疑問と怒りの念にとらわれた。海がぎらりと光った。




・・・・つづく



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