20 自殺か他殺か
「お嬢さん、何かでとても悩んでいらっしゃったんでしょうか。家出なさってたんでしょ」
大田刑事がきいた。
「ちょっと旅行に出てただけですよ」
マユミの母は答えた。
「そうですか?」大田は彼の顔を見ながらいった。「こちらの探偵さんに捜査を依頼されてたんじゃないんですか」
「……」
マユミの母は娘の死体を見たままだまりこくった。
私は無言だった。大田が苦笑して私にいった。
「さっき、あやまってたじゃねえか。おまえ」
「旅行の帰りが遅かったから、探偵さんに頼んだだけです」マユミの母が、うるさそうに言った。大田刑事が母にいう。
「お嬢さんが亡くなったばかりだというのに、つべこべ言われるのもイヤなこととは思いますが、お母さん。
自殺か他殺か、ことの真相を調べるのが我々の仕事なんですよ。手がかりは出来るだけ早く集めて、一刻も早く間違いのない捜査を開始しないと。
もし殺人だとすると、このへんにまだ犯人はいるかもしれない。はやくつかまえないと。
この探偵くんだって、一市民として我々の捜査に協力する義務がある」
大田は私を指差していった。
「私には職業上の守秘義務ってものがあるよ、刑事さん」私はすかさず答えた。
「そうかよ。とんちんかんなことを言うなよ」大田はまた苦い顔をしていった。再び母にたずねた。「娘さんは、自殺されるような心あたりがありますか」
「いいえ」母は答えた。
大田は、そのほか、マユミについて、職業、性格、最近の行状など、いくつかの質問をした。母は拒絶するでもなく、協力するでもなく、最小限のことを答えた。
私に捜査依頼をしたときとは大違いだった。娘の死に接して放心状態であったからだろうが、それにしても警察によほどの嫌悪を抱いているのだと私は思った。
「そうですか。わかりました。また、ご協力下さい。大変もうしわけありませんでした」大田はあきらめて、質問を終えた。
マユミの母は、私に向かって訴えるようにいった。
「探偵さん、お葬式のやりかたって、どうするんでしょう。私、なんにも知らないの。すぐ連絡しないと、だめでしょう?
マユミが腐っちゃうわよね」
私はそれに答えていった。
「残念ですが、お母さん、しばらくは、警察はマユミさんを帰してくれません」
「え?」
・・・・・つづく




