2 何が彼女をそうさせたか
彼女は少し顔を横にむけたが、正面から私を見つめなおし、きっぱりと言った。
「ソープランドです」
私は頷き、さらに続けた。
「旦那さんは」
「別れました。母ひとり、子ひとり。私が一人で養ってました・・・」
・・・家出した娘とは、しかし全くの断絶状態ではなく、ときどき会ったり電話で話をしていた。それが1か月前から全く音沙汰がない。
娘の暮らしていた賃貸マンションを訪れ、大家に事情を話して、部屋を開けてもらった。ちょっと散歩に行ったか、旅行に出ました、という感じで、家具や荷物はそのままになっていた。
「お母さんにだまって、旅行にでも行ったんじゃないですか」
「そんなことはありません。それなら何か連絡があるはずです」
「では、何かあったと、お考えなんですね」
「ええ」
「娘さんは、何かに悩んでおられたんですか」
「ええ」
「それは一体どんな」
「色々あったようです。とにかく捜してほしいんです。本当にかわいそうな子なんです」
「かわいそう、とは?」
「あの子は、本当の父親のことを知りません。あの子の本当の父親とは、結局、結婚しなかった。あの子は、だから父親がいなくて。あたしがあの子をつれて結婚したのは、あの子が10歳のときです。あたしは28」
「さっき、別れたとおっしゃった旦那さんというのは、その、正式に結婚した方のことですね」
「ええ。まあ。でも正式な結婚っていうか。形だけだったようにも思いますし、今となっては…。あたしが馬鹿だったんです。
ひどい男だった。二枚目だけがとりえの、からっぽな奴だったんです。結婚して5年後に、別れたんです。
あいつが役立ったことといったら、マユミの入学願書に、片親でないって書くことができたことぐらいです」
「ご家庭の事情と今回の行方不明とは関係があると思いますか」
「関係ないと思います。そりゃあ、普通の子と違う家庭環境でしょ、感じやすくなっているということはあると思うし、一時、とても悩んでいたけど、解決したんです。
彼女なりに。いい先生にめぐり合ったってこともあって。彼女なりに、明るくて、しっかりした生活していたんですよ」
「しかし、失礼ですが、しかし家出なさったっていうのは・・・?」
・・・・・・つづく