18 まったくついていなかった
青空の下で飲むコーヒーはうまかった。心地よい風が吹き、テラスのテーブルを覆う日よけのパラソルをかすかに震わせた。
こんな朝食は本当にひさしぶりだった。私の商売は結構繁盛しており、ゆっくり休んで優雅な朝食をとるひまもなかった。
マユミの件も早くかたづけたい。マユミを見つけたら、あの法外な着手金は返すことにしよう。
またタバコを吸おうとして、手を動かしかけたとき、カフェテラスの入口、つまりホテルの屋上への出口に、男の姿が見えた。
あのフロントマンだ。彼の協力依頼に対する回答をもってきたのだろう。フロントマンは後ろを振り向き、何か言った。
後ろに誰か続いているらしい。そして彼を指さした。フロントマンに続いて、屋上への出口からもう一人現れた。あれは?
どこかで見た男が現れた。二人は一直線に、ぐんぐん私の方へ近づいてきた。どこかで見た男は声をあげた。
「何だ、お前かよ」
「それは、こっちの言うせりふだ」
私は少し驚いたが、平静な声で言った。
「この方、お知り合いだったんですか、刑事さん」
フロントマンは驚いて言った。
刑事と呼ばれたその男は、ヨコハマ市警察の大田刑事だった。私はいった。
「何しに来たんだ」
「通報を受けてね、こちらから。怪しい男が、大事なお客様のことを、つけまわしてるってさ」
大田は、にやっと笑いながら言った。
「え、そんな」
フロントマンが心外だというように言った。私は大田にきいた。
「車を飛ばしてきたんだな。サイレンの音は聞えなかったが」
「ノーサイレンだ。怪しい男に気づかれて逃げられては、ことだからな。まあ、来いよ。お前の探している美少女が下にいるから」
私たち3人は階下へ降りた。
赤い絨毯の敷かれた廊下を歩き、彼が泊まったのとは反対側の棟にある部屋へ向かった。警官が一人、部屋の前に立っていた。
「尋ね人と同じフロアーに寝てたのに会えないなんて、いっちゃあ悪いが、よほどまぬけな話ってことになるな。それともまったくついてなかったか。お前も、彼女も・・・」
大田は静かに言った。
・・・・・つづく




