17 彼女はよくここに来る
翌日は昨日よりもよく晴れた気持ちのいい天気だった。
ハーバー・ホテルの屋上のカフェ・テラスで、私は朝食をとった。アメリカ西海岸の青空を思わせる、近くて大きな空が広がり、海が見え、遊園地の乗り物や水族館の建物が、日の光を浴びて輝いている。
7つほどの白いテーブルがテラスにはあり、3つのテーブルに人がいた。老夫婦、女学生の3人連れ、そして私だ。
今朝は9時頃に目を覚ました。ロビーに降りていき、マユミの姿がひょっとして見えないかと歩きまわった。フロントには昨日の男はおらず、丸いメガネをかけたロングヘアーの女性が、ぼうっとして立っているだけだった。
ロビーでタバコをふかしながら新聞を読み、ときどきロビーに行き来する人々に目をやった。そこにそうして1時間も座っていた。
OL風の20代後半と思われる女性が眉間にしわをよせたまま通過した。
背が低くサッカー・ボールみたいに太った中年男と爪に赤いマニキュアをした若い女が、彼の斜め向かいのシートに座り、ひそひそ話したり笑ったりしていた。
ホテルのメイドが何かヘマをやったらしく、慌てて走っていった。
新聞には今年の国の予算の概算要求内容がでており、高名な物理学者が亡くなり、芸能人が2組離婚したことがわかった。
ロビーの窓から海が見える。しかし厚ぼったいガラス窓を通して見えるその海は、いまひとつ生彩を欠いていた。
マユミならこんな海に満足しないだろう。フロント横のプレートを見ると、屋上にブレック・ファストのとれる場所があると書いてあった。
フロントへ行き、まだ朝食がとれるか確認し、そのフロントレディにもマユミの写真を見せた。丸めがねの女性の瞳が何か知っているように反応した。昨日のフロントに比べてガードが甘い。
「この方がですか・・・」
「そうです。お心あたりがあるんですね」
「昨日も、その件はうかがったようなんですが、何でしたらその、ご依頼されたお母様といっしょに来てくださらないですか」
「では、彼女はよくいらっしゃるんですね、ここに」
「お答えはできないです」
「では、おっしゃる通りにします。ただ、昨日も申し上げたように、だいぶ思いつめている子のようなんで、ここに来たら、とにかくご連絡いただけませんか」
「はあ」
「感受性の強い子のようなんです。お願いします」
「上の者に諮ってみませんと。私ではなんとも」
「諮ってください。お願いします。僕はとりあえず、朝食をとってきますから。上で」
「はあ」
「また来ます」
・・・・・・つづく




