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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
14/116

14 深海の君

見ごたえのある水族館だった。




開館以来、入場者の数は記録的だという。彼は人気者の白イルカ、ベルーガの水槽を見終わって、大回遊水槽のところに来た。




ドーナツ型の大水槽の真ん中で、海の生き物たちが泳ぐ様子を見ることができる。大きなマグロやカツオ、その他名前は分からないが、あらゆる種類の魚、エイやウミガメもそれらに混じって、見物人の周りを、休みなく、ぐるぐると泳いでいる。目がまわりそうだ。




次のコーナーでは、水槽の中をエスカレーターのチューブが走っており、エスカレーターに乗って水の中をくぐりぬけて昇れるようになっている。




海底世界を、アクアラングなしで水に潜った視点から観賞することができた。色とりどりの無数の魚たち。水面から射し込む光が様々に色彩を変えながら、見物者を魅了する。




エスカレーターを昇りきると、そこはイソギンチャクやヒトデやウニといった、磯辺に住む無脊椎動物たちの世界だった。磯の汐だまりが人工的に再現されており、希望者は、裸足になって汐だまりに入り、タイド・プールの海の生き物たちに手を触れることができた。




平日ということで、館内に人影は少なかった。




ひょっとしてマユミの姿があるのではないかと一抹の期待も抱いたが、子供連れの母親とか、暇をもてあましたような老人とか、授業をさぼってきたらしい大学生カップルが歩いているだけだった。私のような年格好の大人は一人もいないようだった。




しばらく歩くと、またエスカレーターの入り口がある。今度は下りだ。明るい海の水の中を降り始めるが、あたりは急速に暗くなってゆく。




それは深海魚たちの水槽だった。




青から濃紺、やがて、ほとんど暗闇の世界に降りてゆく。彼はあのマリンクラブの螺旋階段を降りたときのことを思い出した。




周りを泳ぐ魚たちの数は段々に少なくなり、その姿も、ユーモラスな、あるいはグロテスクなものに変わっていった。




頭にランプを掲げたチョウチンアンコウとか、鈍く発光するウミヘビとか…。




やがて、魚という概念からはほど遠い姿をした魚たちが現れ始めた。風船を頭につけた紐、ゆらめいて漂っているだけの袋、そんなものにしか見えない魚たち。




そして、暗い海の中に、きらきらと光る細かい粒子が無数に見え始めた。それは細かな雪だった。静かに海に降り続ける雪…。




説明プレートを見ると、それはマリンスノーというものだった。




文字どおり海の雪。海では、死んだ生き物たちの亡骸は、より深い海へ、さらに海の底へと降りそそいでいる。




海、そして生物が誕生して以来、何千年、いや何十億年にもわたって降り続けてきた海の雪。水槽の中で、それを再現しているのだ。私はその美しさにしばし見とれた。




エスカレーターは海底に到着した。




そこはマリンスノーが降り積もり、暗闇の中にぼうっと光る大雪原のように見える。




ここは深度およそ五千メートル。太平洋の平均的な深度の海底で、「深海平原」と呼ばれる世界だという。




こんな深海にも、生き物たちは存在する。




ウニとか、ヒトデとか、ナマコとか。平原の中にゆらめき、踊っているような、まるで地質時代のシダ植物のように見えるのはウミユリという生き物で、あれも動物だという。






・・・・・つづく



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