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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
13/116

13 アクアリウムで

巨大な白いイルカが、目の前をゆっくりと泳ぎ去った。




体長は5メートル、体重は1400キログラム。向こう側の壁へと向かい、また身を翻して、こちらへ泳いでくる。柔和な表情で、私に何か語りかけるみたいに、ぐんぐん近づいてくる。イルカは口を少し開き、愛敬のある笑みを浮かべた。




これは、あのユカリの顔にそっくりだ。彼は水槽の前で思った。マユミがユカリを好きだったのは、このベルーガという白イルカに似てたからじゃないか。




・・・・




ユカリから電話があったのは深夜、というより、今朝方の午前4時だった。




「お店、やめちゃった」




だいぶ酔っているらしく、呂律の回らない口調だった。




「あたし、頭パーだから、あのとき、大切なこと、言い忘れてたんだ」




彼女が言い忘れてたこと、それはマユミの好きだったという水族館のことだった。




「マユミ、海の底が好きだったからね、辛くなると、水族館に行って、そこのホテルで海を見ながらボーッとするのが好きだったんだ。あたしともいっしょに行ったことがある」




マユミがよく出かけた水族館というのは、金沢八景の近くにあるテーマパークだった。水族館と遊園地と海辺のリゾートホテルがいっしょになった施設だった。




「それで、その水族館が、どうしたの」




私は寝ぼけて意識のはっきりしないまま訊ねた。




「そこを見張ってれば、必ず彼女、現れるよ」




「本当?」




「間違いないって。彼女の好きだった、海の底の先生も好きだったそうだよ。マユミ、デートで行ったこともあるんだ」




「その先生と、その水族館へ?」




「多分ね。ねえ、何か、手がかり見つかったの」




「いや、ぱっとしないな」




「がんばってよ。マユミ見つかったら、また遊ぼうって言っといて」




「わかった」




そのテーマパークにあるホテルというのは、マユミの客だった河合の言っていたハーバー・ホテルだ。少し、糸が絡まり合った気がした。




それから3時間の睡眠をとり、翌朝、買い置きしてある野菜ジュースとフランスパンで朝食を済ませ、事務所へと出勤した。




郵便受けを見ると、朝刊と広告チラシとダイレクトメールの間から、白い封筒が落ちてきた。ワープロで打たれたA4版の手紙が1枚、その中から出てきた。ごく短い文章だった。




「マユミを救って下さい。私は彼女を傷つけてしまいました。私では彼女を救うことがもうできません。あなたは彼女の好きだった海の先生に似てる。彼女はきっと、ハーバー・ホテルに現れる」




私はコーヒーをブラックで2杯飲んだ。それから念のため、マリンクラブへと電話したが、やはりまだ店は開店していなかった。




私はその水族館へ行ってみることにした。そして今、ここにいる。




・・・・・つづく



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