114 私のふるさとは・・
ようやく、包みが解けた。布の中の爆弾は、ビニールと和紙で何重にも包まれていた。
「中の白いものが出てきたね。それも剥くんだ。そっとね」キラーはいった。
私は慎重に、和紙を一枚一枚はがしていった。
やがて、中身が見えてくる。髪の毛のような黒いものが透けて見えてくる。
私はぎょっとした。
「どうだい。すごい爆弾だろう。そいつも、永野先生を殺した一味のようなもんさ。俺は、そいつにも、本当に腹をたててたんだ。
あんたも、会っただろう、こいつに?肝心なことは、何も喋らなかっただろう?許せない存在だと思うだろう?
そういう奴を、社会悪の権化っていうんだ」
異臭が、私の鼻をついた。
紙包みから出てきたのは、光聖学院高校で私が面談した、あの芳田教師の首だった。
「…・」
私は、声も出なかった。
キラーは、私の様子を見て、また、けらけらと笑った。
そのとき、宮本が不意に上体を激しく起こした。
宮本の顔は苦痛に歪んで、目は固く閉ざされ、歯を食いしばり、硬直していた。
金縛りにあったか、急に脳性マヒにでもなったかのように体中がこわばり、上腕が体にぴったりと張り付いたまま、手先だけが体の外を向いて震えており、絞め殺されている最中の鶏の姿を思わせた。
そして、苦痛に顔と全身を苛まれて、耐え切れずに斜めに口を開け、奇怪な音を絞り出した。
それは、吐瀉物が出る時のゲエゲエいう音と、苦痛の呻きと、鳴咽とが混じりあったような、、聞くに耐えない音だった。
人間の声とはとても思えなかった。宮本の目元からは、ゆっくりと涙が流れ出していた。
酒の禁断症状なのか、それとももっと悪質な薬物による症状なのかもしれない、と私は思い、昔テレビでみた水俣病患者の悲惨な病状を思い出した。
キラーも、さすがに驚いた様子で、あっけにとられていた。私も、しばし茫然とした。
宮本はそのまま立ち上がり、上体を痙攣させながら、2、3歩、よろけるようにして歩いた。
「おい、おい、何だ、こいつは…」
と、キラーは呆れた顔で声を出しかけて、やめた。
宮本は足をもつれさせて、倒れて転がり、床の上をのたうちまわった。そして、汚れた黄色の液体を口から流れ出させた。
床の上に、黄色い液体が静かに広がっていった。
そして、床に倒れた宮本は、ぶつぶつと何かいい始めた。
…私のふるさとは、青い海の、下。雪が、降り注ぐ、死んだ生き物たちの、雪が、絶えず、降っている。…
聞き取りにくい声だったが、私にはそう聞こえた。
…私は、この地上では、この、世界では、結局は生きていけなかったんだろうが、君たちは、生きなければならない、僕のように、なってはならない。勝手だと思うだろうけど、僕はこれでも、精いっぱいだ。・・・・
・・・・・つづく




