111 キラーは淡々と語る
「よりによって、正妻の子供の河合と同じ学校、同じ学年にいたという、不幸な子供だったというわけですか。事実は小説よりも奇なりだな。正解だよ。それで?」
「君は、河合を怨んでいただろう。河合に比べて、君はもっと父親に疎外されていた。しかし、まがりなりにも兄弟だ。河合とは複雑な関係だったろう。
ひょっとしたら、河合を慕っていたのかもしれない。いっしょになって内田をいじめたのかもしれない。そこのところは、わからない。
そして、永野先生が殺された。この辺の事情が、はっきりとは僕にはわからない。しかし、河合がマユミを殺害したことを知り、君は永野先生に代わって、断罪の事業に着手した。
真紀子さんの愛人と偽って、君の判断するところの、悪を、次々と消していったんだ。
君は、永野先生のことも、マユミの不幸な過去も、河合や内田から聞いて、みんな知っている。そして悪を懲らしめようとしたんだ。正義の味方だよ」
キラーはいった。
「いいじゃないか。安心したまえ。あんたのいったことは、今のことも含めて、全部正しいよ。すごいよ。名探偵だよ、あんたは。ここで死んでしまうのが惜しいな」
「君がアメリカの民間軍事会社で戦闘能力を身につけたのは、さっきいった断罪の事業のためだったのか?」
キラーはそれには答えずに、にやにやしながらいった。
「あんたは、人を殺したことがあるかい?」
「もちろん、ない」
「そう。いいもんだよ。あれは。私は、永野を殺すときには、本当に快感でさ、興奮しちゃったぜ。工事現場のシャベルでぶったたいたんだけど。私じゃないよ、たたいたのは。河合さ。でも私は共犯者だ。
永野の体を押さえつけていたんだ。内田は、そばで泣きじゃくってたね。女みたいだったよ。あいつ美少年だからな。本当にきれいな女みたいだった。内田を見ても、私は興奮したね。内田を犯そうかとも思ったくらいだったよ。
あのとき、河合と内田と私の三人でね、永野さんの家で食事をご馳走になった帰りだったんだ。口論になったんだよ。でも、あれは偶然のことじゃなかった。計画的だったと思うな。河合の計画さ。
永野先生の死ぬ間際の言葉は、誰も罰してはいけない、本当に悪いのはこの永野だ。君たちには、将来があるんだから、ということだったよ。
死ぬ最期の最期まで、我々を心配してた。わかるかい?我々は、みんな泣いたよ。ああいう死に様を見ると、感情が昂ぶって涙が出る。
しかしその涙は、3人とも違ってた。
私は、永野のいきざまに対する感動と殺人の快楽の発見に関する感動、内田は永野のいきざまに対する感動と愛人を失ったことへの嘆き、そして河合は…ある種の敗北感に基づく涙だった。
永野を殺したのに、本当には殺せなかったという怨みの涙だ」
キラーは、淡々と語った。
「しかし、警察というのは本当に馬鹿だな。あれが殺人事件だと、いまだにわからないんだからな。
もっとも、河合の親父の…私の親父でもあるが、あの篠原は警察の偉い奴とツーカーだし、警察の刑事というのは、ここに気絶してる親父みたいな奴ばかりなんだろうし、警察に賢明さを期待する方が馬鹿だな」
・・・・・つづく




