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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
109/116

109 いつ殺されるかわからない

「さっき、あんた、説明してたじゃないの。河合が永野先生への恨みと、マユミへの失恋の絶望から、殺したんだろう」




と、うんざりした顔でキラーはいった。




「話は随分長くて、こんがらがっている。さっきもいったように、さっきの説明では、マユミの死の真相は、十分に解明されていない。




こんな、いつ殺されるかわからない状況だし、話は後先にもなる。それに僕はもともと口べただ。ねえ、ちょっと、タバコを吸っちゃだめかな。




ちょっと、頭を整理したいんだが…。」




私はキラーの顔を見た。キラーは首を横に振った。




私は肩をすくめて、甚だ遺憾です、という感じのつらい顔をした。そして息を吸い込み、吐き出す息とともに、いった。




「永野先生は、殺されたんだろう?」




キラーの表情は動かなかった。眉ひとつ、眼球の僅かな動きすらなかった。




私はキラーに全く無視されてしまい、自分が生き物ではない、ただの物体になってしまったような気がした。




私はいった。




「マユミは、その事実を知ってしまった。だから殺されたんだ」




暫く沈黙になった。




キラーの顔は、何も考えていないかのように見えた。




私はキラーを刺激しないように、かといって弱気にとられないように、ほどほどの語気でいった。




「河合はつくづく、悪魔だ。篠原は河合とは絶縁状態だといってたが、つながりが全く無かったわけではなかったんだろう。




河合もいじめの親分になるような男だ、時々病院にいっては、でかい顔をしてのさばり歩いてたんだ。青酸カリをくすねるくらい、簡単なことだったんだ。




そこへいくと、篠原のもう一人の別の子供にくらべれば、いびつとはいえ父親との絆があるという点では、まだましだった」




キラーは顔をびくりと動かした。私は口調を次第に穏やかなものに変えて喋った。




「永野先生が殺された。これは全く僕の空想でしかない。しかし、そうとしか思えないし、すべてはここから始まっている。




永野先生は、教育理念の挫折と、同性愛に苦しみ、学校を辞めて、「いのちの電話」のボランティアで、マユミという、真の父親に捨てられ義理の父親に犯された少女を勇気づけ、救ってあげた。




しかし、そしてその挙げ句に、永野先生は、この世から消されてしまったんだ。河合らによって」




私は手を下ろした。キラーは文句を言わなかった。私はタバコを取り出し、失礼します、と頭を下げて火をつけた。煙を口から出しながら、いった。




「マユミに、この悲惨な永野先生のことを、永野先生が殺された、ということを教えてしまったのは、内田だ。




酔った席で、二人の共通の恩人であった永野先生について話に興ずるうちに、内田は永野先生の最期について、マユミに話さざるをえない心境になったんだと思う。




しかし、その結果はひどいものだった。マユミはショックで失踪してしまったんだ。きっと、そのころ、この宮本がマユミの前に現われたんだ。




「悪魔が、現われた」と、マユミのノートに書かれてあったんだよ。それは、きっと宮本のことだ。




しかし、マユミは、この宮本を許したらしい。さっきこの宮本が言ってた。ユミの内面はズタズタだったろう。




マユミは、自分を励ます意味で、宮本に、永野先生の物語を熱っぽく語ったのかもしれない。宮本もボロボロだった。




ここでさっき、僕が宮本と話してたのを聞いてたろ?宮本は、河合の手にかかって、全財産を失ったらしい。




マユミに許されて救われた思いだったろう。永野先生の物語を芝居にしようとしたんだ」






・・・・・・つづく

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