106 私の生きがい
「刑事さん、警察にいったら、こうはいかなかったでしょう。それに、これは私の趣味でもあるんですよ。私は、こういうことをするのが楽しいんですよ。生きがいなんですよ。探偵さんには、前にいいましたよね、趣味が昂じての殺しなんですよ」
藤山は言葉を失った。楽しそうに喋るキラーの顔を見て、理解しがたい不気味さを肌身に感じたようだった。私はキラーにきいた。
「河合は、なぜマユミを殺したんだ」
キラーはいった。
「それを私が教えるんですか。呆れたね」
「僕は思うんだが」私はいった。「結局、三角関係だったんじゃないかと思うんだ。内田と河合とマユミのね。そういう要素も考えないと、この殺しは理解仕切れない」
「ほう?そうか、そりゃ気づかなかったな。3角関係か」
キラーはまた、へらへらと笑った。
「しかしもちろん、それだけではない。河合の、生い立ち、彼も篠原に捨てられたようなもんだった。学校時代は、母子家庭だったわけで、辛い目をみたんだ。
しかしあの篠原の息子だけあって、狂暴で戦闘的だった。自分の不幸を解消する意味で、いじめに走ったんだ。いじめの頭領になったのも、うなずける。
彼は、内田を標的にした。内田の、あの美貌というのも、河合が内田を憎んだ要因の一つだったろう」
私はキラーの表情を観察しながら、語った。キラーは、次第に無表情になっていった。私は続けた。
「そして、さらに、河合から見れば許せない欺瞞を吹聴する、最も嫌いなタイプの教師が学校にいた。永野先生だ。
彼は教育熱心で、内田をいじめから救おうと努力した。これまた河合が内田を憎んだ理由の一つだ。さらに、河合は永野を憎んだ。
受験技術の習得ということに何も役立たない、この無能教師は、もっともらしいことをいって、河合らにもっともらしい「教育」をしようとした。
河合の永野に対する憎悪は、頂点に達していただろう」
私は少し喋るのをやめて、キラーの顔をみた。そして、いった。
「こういう線じゃないだろうか。違うかなあ」
キラーは口元を歪めて、声もなく笑った。私はまた喋り始めた。
「そして、ここにも、僕は三角関係を感じざるをえない。怒らないでくれ、出川君」
私はキラーを見た。キラーの表情は凍りついたように動かなくなった。
「永野先生は、内田を愛してたんだ。いや、先生と生徒の愛ではなく、そのものずばりの同性愛だ。
これは河合にとって、教育者の顔をかぶった永野の欺瞞の一つであり、きわめて滑稽な一面だった。
河合の永野に対する軽蔑は強まり、憎悪はさらに燃え盛ったわけだ。
それで、そこで三角関係とさっき僕がいったのは、つまり、河合も内田を愛してたわけだ。
河合と内田と永野先生の三角関係だ。しかし、・・・・」
私はキラーを見て真面目な顔をしていった。
「永野先生は、だからといって、決して変な人じゃなかった。本当にいじめに立ち向かった。いや、いじめに代表される、あの学校とか社会の醜悪な一面に、本気で立ち向かっていたはずだ。
だから永野先生にとっての、内田に対する愛情というのは、永野先生を本当に深刻な苦悩に叩き込んだに違いない。
しかし、生徒達も同僚の先生達も、この永野先生の真摯さや苦悩を見て滑稽だといって冷笑し、あるいは見ないふりをして黙殺した」
藤山は訳が分からないという顔をして私とキラーの顔を見比べていた。
・・・・・つづく




