1 その女の依頼は
その女の依頼は、家出した一人娘の捜索だった。
年齢は30代なかばぐらい、水気の無い茶色がかった長い髪。日本人離れのした目鼻立ち。4分の1くらい、フランス人の血が混じっていそうだ。
少し老けたフランス人形という感じだが、美人である。女優のソフィー・マルソー似。しかし厚めの化粧が、美しい顔を台無しにしている。
泣きはらしたのか、目が充血している。原色のけばけばしい服装・・・彼女の素晴らしいプロポーションを少し猥雑な印象にしている。一目で、水商売系の人と分かる、いでたち・・・
「もう1か月も、娘から連絡がないんです」
彼女はうつむいたまま、墓場から出てきたばかりの幽霊のような声で、いった。
彼女は今日二人目の客だった。私は彼女を眺め、それから横をむいて密かにあくびをかみ殺した。昨日も調査資料の整理で、ほとんど寝ていなかった。
昨日の資料整理というのは、1週間前の客に関するものだった。
銀行員の妻から、夫の浮気調査を頼まれた。その結果の整理だ。
今日の一人目の客も浮気調査。70歳の老婆が、夫の素行を調べてほしいというものだった。老人サークルで知り合った65歳の女性との仲が怪しいというのだ。
はじめは冗談か、老人のひまつぶしかと思ったが、老婆は真剣そのものだった。恐ろしい形相で依頼内容を説明する老婆に、私は圧倒された。
老婆が帰ったあとで、私は昨日の疲れが一気によみがえり、底無し沼に沈んでいくような眠気に襲われた。眠い。しかし、仕事だ。今はこの依頼人だ。
眠気を殺して、目の前の彼女の話をきいた。
「警察には届けましたか」
「いいえ」
「警察、苦手ですか」
「警察、嫌いです」
「・・・ですか」私はうなずき、それから、いった。
「娘さんについて、聞かせて下さい」
彼女の娘は、1年近く前に高校を突然中退し、家を飛び出て、市内の、いわゆるキャバクラに勤め始めた。
「あのときも、大変だった。あの子とは大喧嘩した。でも、あの子の人生のことだし、私の大切な娘だし、私が・・私の商売のことで、あの子が学校でうまくいかないっていうのも、よく分かったし…」
「あなたのご商売というのは」
「……」
「風俗ですね」
「…ええ」
・・・・つづく