第一話
太陽が見えない街、「月光」。
ねぇ、君のいるところには太陽って…見えてる?
ー僕のいるところ一日中夜なんだ。
ある年の八月二十一日の事…。
気がつけば僕はもう十五歳。
この街にきてから丸三日は経った。
「…慣れないな。」
苦笑したように小声で呟いてみる。
まぁ、確かに慣れていないことは事実だ。
僕がこの街に来た理由、それは、この街のある問題について探る為。
この街の問題?
見てみればすぐに気がつく。
この街は地図で見れば南の方向にある、温かい街だ。
しかし、いつの間にか夏だというのに肌寒くなり、やがては太陽が夜の闇に呑まれてしまった。
この町は昔は明りが良く当る街だったらしく、名は「月光街」。
なかなかいい名だと思う。
さて、月光街の事はコレぐらいにして、僕の事をお話しよう。
僕。波瀬 妖花はある探偵事務所の最年少の女子だ。
一人称が僕なので男と勘違いされることは多々在る。
僕が解決してきた事件は軽く数えて二百…程はあるだろうか。
茶髪で長いロングの髪はポニーテールにまとめてある。
大きな猫目、黒い帽子、温かそうなコートにスウェット。
服装はいかにも男。
だが、顔は綺麗よりも可愛いといった感じの子。
なんて、自分で言うのもどうかと思う。
「どうしたんですか?」
僕が一人で小さく笑うと、隣にいた背の高い男の子は顔を覗いてくる。
いきなりだったので驚きを隠せなくなる。
「あ……、あ、あぁ。英輔か。悪いな。思い出し笑いだ。」
誤魔化すようにわざと微笑んで見せる。
英輔の表情がほんの少しだけ…、紅く染まる。
この英輔という男、藤沢 英輔は僕と同じく探偵事務所に所属している。
とは言っても最近きたばかりで僕の弟子として働いている。
歳は十九で僕より上だが、僕を慕ってくれている。
「ははっ。そうですか。まぁ、楽しそうで何よりです。と、そうではなかったですね。はい、資料です。調べてきましたよ。」
そういうと英輔は大きめの何枚も束ねた紙を僕に渡す。
「ん。助かる。ありがと。」
僕はさも同然に資料を受け取ると、ただでさえでも暗かった空がもっと黒に染まっていくのを眺めた。
「「………………。」」
沈黙が流れる。
視界には入ってこないが、英輔も黒いこの空を眺めているのだろう。
綺麗とは言えないような空。
だけど何処か…。
アレ?
僕は何を考えているんだ…??
下らない。情に流されたな。
僕が考え込んでいるとふと、頭に温かい感触がした。
「……ほぇ?」
可笑しな声を出して振り返ると後ろから英輔が僕の頭を優しく撫でていた。
「すぐ一人で考え込むな?相談…して下さいよ?」
心配そうな、泣きそうな…、不思議な表情で僕を見下ろす英輔。
僕はそんなに溜め込むタイプではないと思うのだけど…?
まぁ、いいか…。
適当に返事をして資料に目を通す。
…ん?何?この文は………。
自然と目が開く。
そして、一枚目の月光街に伝わる伝説の碑文に目が行く。
「英輔。これは?」
ある一行を僕は指差す。
「あぁ、この碑文ですか。」
言われるのを待っていたかのように英輔は説明を始める。
「ー愛しむ、優しい髪ー
まず、これですね。これは多分、ある特定のとても綺麗な人物がいたんでしょうかね。で、それで碑文にこの人が大きく関係していることから碑文にこの人物を説明する文が入ったと思われます。
ー吹き抜ける蒼き風のごとくー
次にこの文。これは次に続くので続きも読みますね。
ー黒い世界がいつしか現れるだろうー
…。問題はこの文なんですよね。この碑文って、実は昭和時代の結構な昔に創られたようで、…はっきり言っちゃうと、ありえないんですよ。この碑文…。だって、この黒い世界って今のこの黒く曇った空に囲まれたこの街のこと言ってると思うんです。そしたら、ホラ、可笑しくないですか?」
「…何が?」
長い説明に飽きて、半分聞き流していた僕は重要な話と感知して英輔の話に食らいつく。
「この碑文、よく考えるとですね?”最初からこの街が黒く染まっていくのを何年も前から予言していた”ことになるんです。」
その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
……………ぇ?
それって……!!??