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As long as I can be her lover

 胸を抉るような一文で締め括られた長いメールを読み終えて。

 その直後の僕の心境は思いのほか凪いでいた。

 何が書いてあるにせよ、これが彼女の最後のメッセージであるという予感は読む前からあった。だからどこかのタイミングで感極まって泣いてしまうんじゃないかと想像していたのだが、結局最後まで両目は乾いたままだった。

 無論それを読んで何も感じなかったわけではない。

 たとえば驚きはあった。メールには僕の知らないことがたくさん綴られていた。

 まさか彼女が好きだという相手が僕だったとは……。

 僕を絶望させたあの告白にそんないじらしい企みが含まれていたなんて……。

 もし前もって気づいていれば、此度の彼女との別れは回避できたかもしれない。しかし、こればかりは過去の自分を責められない。あの時点で彼女が僕のことを好いてくれているなどという確信を持つのは、さすがに自惚れが過ぎるという話だ。

 嬉しさも当然あるが、それ以上に胸を覆った感情は安堵だった。

 彼女の好きな人が僕じゃない誰かでなくて良かったという安堵だ。

 僕の心は未だに彼女に奪われたままだ。するとどうやら僕はまだ心を失わないで済むらしい。

 様々な感情が胸の中に芽生えていたが、その中には少しも、マイナスの感情は含まれていなかった。たとえば二度と彼女に会えない悲しみだとか。

 あるはずがなかった。だって二度と彼女に会えないだなんて思っていないから。

 自分のことは忘れて幸せになってくれと、彼女は一心に願っているようだけれど。

 そんなことはどうでもいい。

 別に幸せになんてなれなくたっていい。

 そんなものに興味はない。

 たとえ幸せとは程遠い、茨の道を進むことになったとしても。

 僕は彼女の恋人になれさえすれば、それでいいのだ。

 窓の外の景色を見上げた。澄み切った漆黒の空に、ぽっかりと月が浮かんでいる。

 彼女も今頃、同じものを見ているのだろうか?

 その時、僕はふと気がついた。残り15センチを埋める鍵がすぐ傍らにあったことに。

 今度こそ絶対に選択を間違えたりはしない――

 そんな決意と共に、僕は僕の返信を待っているであろう彼女に向けて、彼女が最も望んでいるであろう言葉が綴られたメールを、まずは勇気を持って送ってみることにした。

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