私のせいだ!
お久しぶりです。
エセルティ男爵視点です。
私は、モーブラ・エセルティ男爵家当主である。
いや……今から身分を陛下にお返しするので、ただのモーブラでよいな。
私は、そもそも次男であり男爵家当主になる予定では無かった。
次期当主であった兄が馬車の横転事故により、この世を去ってしまったせいで私が、成り上がってしまったのだ。
兄は次期当主として両親や周囲の人間に期待され、それに完璧に…いや、それ以上に応えていた。
私は、次期当主になるつもりも無く興味も無かった。
だってそうだろう?
私が物心ついた時には、既に両親に期待された兄は立派な次期当主であったのだから。
両親も私には何も期待していなかったし、平民になるはずの次男坊に時間を割くのも面倒くさいと感じていたと思う。
私が男爵家当主になったのは、今から18年前の事だ。
兄上が、馬車の横転事故で突然この世を去ってしまった。
父上と母上の嘆き悲しむ姿は異常だったのを覚えている。
兄上が事故死して2年ほど、父上は兄上の死を受け入れることが出来ず、逃げているかのように、考えないようにとがむしゃらに政務をしておられたが、それが祟ってしまった。
過度のストレスと不眠、食生活の乱れ、無理矢理詰め込む仕事のスケジュール。
正直、よくぞ2年もこんな生活が出来たなと、よくぞ2年も生きていけたなと、感心してしまったくらいだ。
父上はある日呆気なく、兄上を追うように亡くなった。
母上は、兄上が死んだ後から部屋に閉じ籠り出てこなくなってしまった。
そして、父上も亡くなった日の夜、2人の後を追うように母上は自殺した。
両親にとって子供は、兄上だけで私はどうでも良い存在なのだと痛感した瞬間だった。
右も左も分からない状態のまま、18歳の私は男爵家の当主に成り上がってしまった。
今思えば、この時に男爵の地位をお返しすればよかったのだと今なら分かる。
しかし、当時の私は領地経営などやり方すらわからず、根回しや貴族法を知らず、ただただ無防備で無知な若造男爵当主であった。
婚約者も平民になるつもりだった為、居なかった私は早急に婚約をまとめさせられた。
唯一頼りにしている叔父の紹介で、伯爵家の三女を迎え入れる事になったが、私は彼女を好きになれなかった。
美人だが、傲慢で我儘で世界の中心は自分だと思っている様な女だったのだ。
冷静に考えると、押し付けられたのではないのか? と、思うようになったのは結婚まで1ヶ月を切っていたので、婚約破棄も出来ずただただ流された。
結婚してすぐ妻が身籠もり、ほどなくして産まれたのは妻に似た娘。
しかも妻は産後の肥立ちが悪く、娘を一目も見る事なくこの世をさった。
私が20歳のときである。
母親が居ないまま、だけど娘はスクスクと育っていった。
乳母やメイド、侍従、偶に私に構われながら…。
私は仕事でアップアップしつつも娘を構に行く。
娘は、可愛らしい。
分からない、慣れない経営術や人間関係や根回しなど、ストレスでどうにかなりそうだったが、可愛い娘を見ればどうでもよくなった。
妻に似たおかげで、将来は美人になるだろう。
大事に大事に育てた。
それが崩れたのはいつだったか……。
そう…あれは…娘の10歳の誕生日の日。
娘は、誕生日パーティーの途中で突然倒れた。
屋敷中の人間がパニックになるほどだった。
皆が心配し、娘の部屋付近をウロウロ。
私もその中の1人になったのは言うまでもない。
兎に角、心配で心配で目が覚めたと、連絡が来た時には侍従長に叱られながらも、娘の部屋に走って行ったくらいだ。
目を覚ました娘は、不思議なことに娘と感じなくなっていた。
おかしい……あんなにも愛していた娘が娘と、感じなくなっていたるのだ。
私は病気にでも患ってしまったのかもしれないと、主治医に相談するも、いたって健康。
しかし、娘に愛情を持てないのは変わらない。
どうしたらいいのか。
悩みに悩んだ。
そんなある日、侍従長とメイド長から娘の様子がおかしいと、告げられた。
今まで穏やかな性格であった娘は、突然暴力を振るうようになり、手がつけられないと。
ドレスや宝飾品は華美なものを選び、いくらでも欲しがって癇癪をおこすと。
8歳から娘の専属メイドになっていたサリナは、娘の変わり様に、悪魔付きになってしまったのでは無いかと心配している。
10歳の誕生日パーティーで倒れてから、娘の性格や好みが反転したのだ。
まるで…魂が入れ替わってしまったかのように……。
サリナのように悪魔付きになたのではないか、と心配する使用人達が増えた。
神殿に問い合わせ、娘に浄化をお願いしたが、娘は元に戻らないままであった。
屋敷中の人間が、娘から離れていった。
優しく、笑顔が可愛らしい娘は消え、残虐で傍若無人な暴力娘……。
人格が違いすぎた。
専属メイドのサリナでさえ、耐えられなくなり娘から離れ辞めていった。
次の専属メイドも、娘の暴力に耐えられず直ぐ辞めた。
親である私でさえ、娘に近づかなくなった。
この時に、逃げずに親として対応すればまた、違った結果になったのかもしれない。
しかし、私は、自分の娘から逃げた。
ダメ親に成り下がった。
癇癪持ちの暴力娘。
エセルティ男爵家の娘は気に入らない事があると、直ぐに鞭を持ち出す野蛮な娘だと噂がたっていた。
そのせいか、娘の専属メイドの求人をとっても、誰も来てくれず途方に暮れる。
そんな時、私兵団の副団長ユーリッヒに娘と同じくらいの娘が居ると知り、ユーリッヒに打診してみた。
給料は、普通のメイドの3倍を提示した。
ユーリッヒは微妙な反応だったが、ユーリッヒの娘は二つ返事で了承してくれた。
給料の高さなのか、娘の噂を知らなかったのかは知らないが、駄目元だったが良い返事が貰えてホッとした。
娘を任せられる人が出来て、煩わしいとさえ思いはじめていた娘をユーリッヒの娘を丸投げしたのだ。
今思うと最低な行為だ。
自分の娘なのに向き合う事もせず、他人任せ。
静観するフリして、娘から逃げた。