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私は悪くないわ!

鞭打ちされたくない私は団長と副団長に両側から挟まれながらお父様の執務室を大人しく出た。

執務室から出ると直ぐ手足を縛られて担がれる。

既に馬車が外に用意されていた。


嘘でしょ?

今すぐ修道院に行くの?

せめて着替えとか持って行きたいのに。


「ねぇ、そこのアナタ、私に部屋行きたいのにだけど、着替えとか持って行きたいし……ねぇ!聞いt…もがもが」


私が暇そうにしている御者に命令していると、近くにいた私兵の1人が私の口に猿轡をはめてきた。

よく見ると副団長だった。


「リリーナ様?自分の立場がわかっていませんね?エセルティ男爵家にはもう、アナタの部屋なんてないんですよ。平民が貴族の家に部屋なんてあるわけない。身一つで行ってもらいます」


酷い!

なんて酷い人達なの⁈

私に何日も同じ服でいろって言うの!

私は副団長をキッと睨みつけた。

それぐらいしか出来ないのが悔しい!


「おやおや、余程鞭打ちされたいみたいですね?いくらでも打ってあげますよ」


睨む私に副団長が嬉しそうに笑う。


「覚えていますか?私の娘を…。恐らく覚えていないでしょうね。私の娘は、アナタの3人目の侍女だったのです。アナタの我儘や暴力、暴言に次々と侍女が変わって行きましたが、その中に私の娘もいたのですよ?アナタが娘の背中に鞭打ちしたおかげで背中に鞭痕が残り、婚約者と婚約破棄せざるを得なくなりましてね、娘は心の病に侵されました。アナタは心の病にならずに私に痛めつけられて下さい。ふふふ…大丈夫ですよ。エディルエラ修道院に行くまでのたった数日の辛抱です。アナタが私の娘にした様に3ヶ月も鞭打ちしたりしませんよ」


鞭を出しながら、ニッコリ笑う副団長を見てゾッとした。

正直言って覚えていない。

知らないわよ副団長の娘がいたなんて!

私は悪くないわ。

だって、悪い事したら鞭打ちするのが主人のつとめだし、イライラした時も鞭打ちしたけど、他の家だってきっとしてるわ。


イタッ、痛い!止めて!打たないで!

もう、睨まないから睨みませんから!鞭で打たないで!

痛い!いたい、イタイ!

やめてよ。


何で⁈何でこんな事になったの?

私が悪いんじゃない!

誰か助けて。

副団長に殺される!


イタイ、痛いよ。

手足を縛られているんだから、キチンと座れなくても仕方ないじゃない⁈

何で鞭打ちするの?

イタイ、痛いよ。


痛い、いたいよ。

手足を縛られているんだから、ご飯が犬食いになっても仕方がないじゃない⁈

何で鞭打ちするの?

痛いよイタイ。


早く、早く!修道院に着いてよ。

痛い、苦しい、寒い、お腹すいた。

私はヒロインなに、何でこんな目にあってるの?


何日、馬車に居たのかわからないが、私は永遠とも言える苦痛を味わった。

最後の頃は、痛さで意識が混濁していた部分もある。

気がついたら、簡易ベッドに寝かせれていた。


あぁ、やっとあの地獄から抜け出せたのね。

ホッとした。

身体がまだあちこち痛いけど、もう、あの鞭打ちを恐れなくていいんだ。

ご飯はもらえないかしら?

ご飯もまともにくれなかったから、お腹空いてるのよね。


私は、周りを見渡す。

粗末な部屋に粗末なベッドがあるだけの寒々しい部屋だ。

ここが、エディルエラ修道院なのかしら?

誰か来ないと何もわからない。


「やっと、起きたか。今日から客をとってもらうぞ。アンタ可愛いし初モノだろ?高く売れるぜ」


山賊を思わせる男と気難しそうな女が私のいる部屋に入って来た。


「初モノ?え⁈何のこと?此処はエディルエラ修道院じゃないの?」


「此処は、妓楼だ娼館さね。アンタは売られたんだよ。私は楼主だと思ってくれればいい。こっちの男はこの辺の妓楼を纏めてる元締めだよ。身体の鞭傷はある程度治療しといたから、身代金に治療費を足しとくからね。今日からキッチリ客をとってもらうよ」


娼館⁈

何で?

私、売られたって…どうして⁈


「返事くらいしたらどうだうだい?生意気ね」


「私を売った人は誰ですか?」


「はん!そんな事知ってどうするのさ。アンタは一生この妓楼からは出られないんだ」


楼主、皮肉に笑い、山賊を思わせる男は違いないって笑っている。


嘘でしょ⁈

誰か嘘だと言って!

ここから出して!


こんなのってないわ。

私はただ幸せになりたかっただけなのに!





リリーナ・エセルティこと、リリーナは短いその一生を寒空の中、終えた。

顔が可愛らしかったことから一時人気が出たが、教養が無い上、我儘でプライドが高く、酷く客や他の遊女と揉める事も多かったため、人気はどんどん下火になっていった。

10代、20代ならまだ仕事もあったが、30歳を過ぎるとただでさえ少ない客足は更に遠のき、身請けの話も出ず31歳の雪の降る寒い日に、ひっそりと妓楼を年季開けとして追い出された。


そのまま雪がちらつく中、行く場所も無く何をしていいかもわからないリリーナは、当てもなく彷徨い続けた。

その姿は痩せ細り、老婆の様に老け込んでいた。


リリーナは、木に足を取られ倒れ込む。

うつ伏せから仰向けに寝返りをうち空を見上げる。


「ははは、何でこんな惨めな人生を生きなきゃならないの?私は悪くないのに、私はヒロインなのに」


空から降りしきる雪に段々と埋もれていくが、リリーナは立つ気力も生きる気力も無くしていた。


この雪降る極寒の中薄着で追い出されたリリーナは、静かに人知れず雪の中で眠る様に息を引き取った。


最後の最後まで、私はヒロインなのに、と心の中で愚痴りながら…。








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