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第9話:2人組を作って下さい

 楓にとって苦手なものは、この世にたくさんある。


 辛い食べ物は大体嫌いだし、虫も嫌いだし、電車の中でバカ騒ぎをしている大学生も好きじゃない。


 いやこれでは、楓の好みを列挙しているだけだな。とにかく、彼女には嫌なことが色々とあった。


 そのうちの1つに、【2人組を作って】というあるあるな指示がある。


 主に体育の時間とかに、2人組でパスの練習をしたり柔軟をしたりする。その際いちいちペアを決めるのも面倒だからと、生徒の自主性に任せるのだ。


 しかし楓が、あの内気な楓が、自ら2人組になれるわけもない。奇数しか居なかった中学時代のクラスなんかは、いつもあたふたしているか、先生と一緒にやっていた。


 楓にとって、それくらいトラウマのある言葉なのだ。これならまだ最初からペアを決めてくれていた方が気が楽だ。楓はそう思うことが多かった。ともかく、自ら進んで誰かと班員になるなど楓のコミュ力では到底追いつけない高みなのだ。


「【2人組作って〜】って例え、安直過ぎて飽きてきたのよ」


 お昼休み、中田は楓に対してそう愚痴っていた。楓としてはその理由はよくわからなかったが、どうせまた彼女の読んだネット小説がそんなやり取りでもしていたのだろうと心の中で細い目をしていた。


「う、うん」


「いやあさ、確かに主人公がぼっちですよアピールをするには最適な例えだとは思うわよ? それに恐らく共感性もあるんでしょうよ。読んでいる人の中にそうした問いかけに苦しんだ層がいるからこそ、この流れができてるってのは認めるわよ?」


 楓は卵焼きをポリポリとちまちまと食べつつ中田の熱弁に耳を傾けていた。


「だからってどの作品もその流れしたら食傷になるってもんよ!!! 『「みなさーん、では今から2人組を作ってください!!」うっ、俺は心が痛くなった。俺にとってこの言葉はトラウマ以外の何物でも……』みたいな感じの!!! いや他にぼっちだと表現する方法あるよって!!! お祭りに誘われたら数時間経っても友人が来なかったとか、隠れんぼしてたら誰にも発見されないままみんな帰宅してたとか、課外学習に班単位で出かけて一言も話さず終わったとか……」


「隠れんぼは割と見る気がするけと……」


「あーまあたしかにそうかも。いやそうじゃなくて!!」


 中田は眼鏡フレームの真ん中をくいっと中指で押した。


「みんなこの表現から脱するべきだと思うよ。もっと個性が欲しい!! 今のままじゃジャンプ読切で主人公が1ページ目から腹減ったーって始める的な悪いテンプレの見本になると思うよ」


「今そんな人いないイメージ……」


「そりゃそんな人はデビューできなくなってんのよ、この表現でもそれをすべきだよ。ってか、私はテンプレを読みたくないから異世界転生ものとか読んでないのに、どうしてラブコメでもテンプレ読まなきゃいけないのよ。ほんと頭にくるよ」


 中田はそう言いつつ、コンビニで買ったパン類を食べ終わらせたようだ。


「まあそれはそれとして…………」


 楓はようやく相談したかった事項について話し始めた。


「どうやって…………3人組…………作る?」


 この質問には先程までベラを回しまくっていた中田もダンマリだった。何故楓達が3人組を作らなければいけないのか。2人じゃダメなのか2位じゃダメなのか。その理由は端的である。


「遠足よねえ……面倒なことして、自動で決めてくれた方が幾ばくか楽よ」


 中田は先程2人組作る件でボヤいていたことを意図せず同じような趣旨で話していたのでとても興味深かった。やはりみんなそう思っているのだ。少なくとも、コミュ力の足りない人種達は。しかしこの世界はコミュ力のある人達が実権を握っている。だからこうして、楓と中田は腕をくんでいるのだ。


 彼女達の高校ではこの時期BBQに出かける。その班を決める際に、男女混ぜこぜのグループを作りたいと提案した者がいたのだ。この時点で楓にとっては不穏だったが、その結果決まった割り振り方法はこうだった。


 ①男女とも3人組6つと2人組1つ作る

 ②くじを引いて1組ずつペアにしていく。2人組同士がペアになったらやり直し


 基本は3人組を作って欲しいという要望もあり、楓と中田は頭を捻っていたのだ。このままでは2人ぼっちになってしまう。この条件で2人組になるとか、ぼっちの見本市みたいなものである。


「あっ、内山さん」


「……つっっっっっっ!!!?!!?!?!?!?」


 コンロが引火しているのではない。楓は急に話しかけられるのも苦手なだけだ。その相手は、土橋赤葉。


「これさ、お礼の品」


「おっおっおれっ!?!?」


「ほらこの前看病しにきてくれただろ?従姉妹の」


 本当は土橋の看病だったのだが……いやそれは口にすまい。


「あれから良くなったよ。ありがとうな」


 貰ったのは、どこかのお土産。りんごのお菓子。天童と書いてあった。詳しい話を聞く前に土橋はその場から去ってしまった。詳しい話など聞かずとも、楓にとってそれは大切な宝物になった。


「ねえ、遠足だけどさ」


「うん」


「3人組の3人目は土橋くんでいいかな?」


「だから女子で3人組作れって話だったでしょ!!!!!」


 中田の呆れた声がため息と共に教室中へ伝播していった。

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