2-15 踏み出す一歩
「理瑚ちゃん!!」
元の工場に降り立つと同時、聴き馴染んだ人懐っこい声が呼びかけてきた。
「柑奈――って、その格好っ」
再会するなり理瑚に抱きつく柑奈の姿は酷く汚れていた。体のあちらこちらに土や、血液だろう跡が見られた。着ていた制服は見る影もないほどに無残に破れている。
「感動の再会と言いたいところだけど、早めにここを離れた方が良いかな」
一際感情のない声が背後で聞こえた。
振り向くと柑奈ほどは酷い有様ではないが、透輝も汗と土にまみれている。
「あいつらは?」
理瑚は自分たちを襲撃した人物がこの場にいないことを不思議に思い尋ねた。
あの草獅子という少年にはまだ聞きたいことがあった。
「音戯くんなら少し前に立ち去ったよ。彼の亜空間も思ったよりも応用が利くみたいだね」
どうやら一緒に連れていた少女を亜空間に入れて運んでいったらしい。
理瑚はこの場に出られたので、亜空間の出入り口を創り出す位置も自由なのかもしれない。
「音戯くんから何か聞いたかい?」
「うーんと、神様がどうのとか超能力がどうのって話を聞いたけれど」
「ああ、その話ね」
興味なさげに透輝が漏らす。
荒唐無稽な話だったので、そういう反応も理解はできる。
「二人は超能力のことってどこまで知ってるの?」
「うーんと、私はあんまり知らないかな」
「正直、僕も今まで話したことや音戯くんが話しただろうことくらいかな。詳しく研究していた人なら心当たりはあるけれど」
そこで一度言葉を切って、透輝が何かを悟ったように続ける。
「それで理瑚ちゃんはどうしたいのかな?」
「私は……、私のこの能力のことをもっと知りたい」
正規コードと分類される恐ろしい能力を理瑚は持っている。
ただ自分の能力のことを思いつめて、柑奈の能力に甘えているだけではダメな気がした。
時がたてば自分は老い、それだけ傷を負うリスクも増えるだろう。老衰後に能力がどうなるかもわからない。『生命の泉』のレプリカがいつまで使えるかもわからない以上、不安定な時限爆弾を抱え続けたままじっとしてはいられない。
この能力のことをもっと知らなくてはいけない。能力を無効化するか消し去るか、そんなことができるかもわからないが、不可能とも決まってはないはずだ。
超能力は近年発生した理の歪みだというなら、まだ可能性はいくらでもある気もした。
そして、もう一つ。
理瑚が『Fコード』と呼ばれる以上、最低でもA~Eまでもいるのだろう。そんな理瑚と同じように正規コードと呼ばれるものがどうしているのかも知りたかった。
理瑚はたまたま柑奈や透輝が助けてくれた。ただそれはきっととても恵まれていることなのだろう。
本来、そんな都合よく誰かが助けてくれるとは限らない。それこそ正規コードと分類されるほどの能力に纏わることならなおさら――。
だからこそ、同じ境遇の自分ならばと、理瑚が考えても不思議ではなかった。
決してそれは慢心でも同情でもない。自分にできることをしたいという、些細な願望だ。
「それが理瑚ちゃんの答えかい?」
静かに問いかける透輝に、理瑚は揺るがない眼差しで応える。
理瑚が望んだ能力じゃない。その責任も義務も義理も、そんなものは端から存在しない。
それでも理瑚は一歩を踏み出すことを決意した。
柑奈や透輝が理瑚のことをヒトとして見てくれるならそれに答えよう。
草獅子が言っていた「世界を守る」という意味は理瑚にはわからなかったが、理瑚のその能力で守れるものがあるというなら、それを知りたいとも思う。
桃から生まれたからといって、鬼退治に行かなければならないわけではない。
『命拾い』は周りの生命を拾い取ってしまう全生命の敵とも言える能力だ。
でもだからといって、人類を殺しつくさなければならないことも、閉じこもっていなければならないこともない。
きっと桃太郎は正義感で立ち上がったのだ。おじいさんおばあさんを、村の人たちを救いたいと思って旅だったのだ。
そこにあったのは責任ではなく、たった一つの想いだったはずだ。
理瑚は立ち上がる。
正規コードと呼ばれる歪みにも、運命にも負けないのだと一歩を踏み出す。




