2-13 神は滅亡を桃はお供を連れる
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神は現れた。
神の定義など知る由もないが、もし仮に人知を超えた存在であると定義するならば、それを神と呼ぶのがふさわしいのだろう。なにせそれは、物理法則などというものを鼻で笑うような人知を越えた力を僕らに授けたのだから。
そう、異能な力をもった者同士の、人類存亡をかけた戦い。
それが人類滅亡計画、僕ら人類の存亡をかけた、地獄のような一週間である。
一週間で世界を創ったとされる神は、一週間で人類を滅ぼす順路立てを行った。いや理由づけというべきか。
神がなぜそう考えたのかはわからない。しかし現実として神はある時、人類の滅亡という僕らにとっては絶望的な希望をもった。
神とは決して理由なく事をなさない。そしてその行動は神の自分本位なものであってはならない。
知恵の実を食べたからという大義名分により人間を罰したように。誰もが納得せざるを得ない、諦めなければいけない、言いくるめられてしまう理由が必要なのだ。
それが、全知全能たる神の唯一無二、絶対不可欠の義務で、責任で、理である。
人類が滅びるか、生きながらえるのかさえ、決めるのは運命でなくてはならない。つまりはそれだけの偶然(理由)と必然(言い訳)がなくてはならない。
――神は考えた。運命に神の意向を織りまぜる方法を。
人類の存続を願う人間を殲滅してでも、人類の滅亡を願う人間がいるなら、これを叶えることに何の問題もないだろうと。
こうして人類の存亡をかけた戦いは始まった。
人類滅亡計画。僕らと彼ら、超能力者による殺し合いだ。
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『もしもし? 順調に鬼退治の旅を進めていることろ悪いのですが、少々お聞きしたいことが』
「何よ?」
恐る恐ると言った感じで草獅子が尋ねる。
『おそらく桃太郎のお供を連れていらっしゃるつもりかと思うのですが』
日の本一の旗印を掲げ、腰に小振りの日本刀ときび団子を携えた理瑚の隣には、三匹の動物たちが並んでいる。
「つもりというか、お供に決まってるじゃない。桃太郎なんでしょ」
『そうですよね。では、そちらの可愛らしいワンちゃんは何なのでしょう』
草獅子の言った先には、大きなタレ耳とハウンドカラーが特徴的な、愛くるしい小型犬がブンブンと先の白い尻尾を振っている。
「ビーグルって知らない?」
『知ってますよ、知ってますけれども。えーっと、一応鬼退治なのでそういうかわいい系のイヌじゃなくてですね』
「猟犬だけど?」
『スヌーピーのイメージなんだよなあ』
草獅子が嘆きをあげるが、まだお供の紹介は序盤だ。すぐに気を取り直して次のお供のことを尋ねる。
『うーむ、それではそのお隣はおサルさんですかね?』
ビーグル犬の隣できび団子をむしゃむしゃと食べているのは、日本人が一般的にサルとして想像するものとは大きく異なる。アフリカ大陸の南東の島にでも住んでいそうな、白と黒の縞模様の長い尾を持った灰色の小動物だ。
「ワオキツネザル」
『サルですらないっ!』
「えっ? サルってついてるけど」
『キツネザルってところまで見えませんでしたかねえ』
首をかしげる理瑚に、草獅子は軽く頭を抱えつつ次のお供へと視線を向ける。
そこに立っていたのはまさしくお供のイメージに寸分のくるいもない一羽の鳥の姿だ。美しい緑色の身体に茶褐色の翼と尾羽、顔にはニワトリにも似た赤い肉垂が雄々しさを放っている。
『おお、良いじゃないですか。見事に立派などこから見てもキジじゃないですか』
「そりゃキジだもの当たり前でしょ」
『今までのラインナップが種族だけじゃ安心させてくれないんですよ。それにしても随分とおとなしいですね』
「そりゃあ、剥製だもの」
『お荷物っ! 読んで字のごとく紛れもなく荷物でしかないっ』
一風変わったお供を連れた桃太郎の世界に、草獅子の大きなツッコミと吐息が響き渡るのだった。




