2-6 竹林の襲撃者
新緑を吹き抜ける風が、カサカサと小気味良く笹の葉を鳴らす。
「ちょっと何ここ。理瑚ちゃんは?」
「音戯くんの能力だね、これは」
やけに人心をくすぐる声色と、カンに障る落ち着いた声が孟宗竹を伝って重重へと届く。
「音戯くんの能力は異空間を創り出すっていうものでね、いつもは捕縛用だったんだけど。まさか、分断させるために使ってくるとはね」
「分断……って、ちょっとそれ。理瑚ちゃん狙いってことでしょ。こんなところで油売ってる場合じゃないでしょ。火急的、速やかに、できるだけ早く、助けに行かないと」
まったく騒々しい。と重重の苛立ちはつのっていく。
甲走透輝という男の周りはいつも騒々しい。騒々しく、鬱陶しい。重重は元同僚のことを想い、一笑に付す。やっとあの男を葬れるのだと。
「随分と楽しそうにしてるじゃねーか。よう」
「まあ、君はこっち側だろうね。最近随分と過激に活動しているみたいだし」
会話に割って入るも、透輝はさほど驚きもせずいつもの安っぽい笑顔を向けてくる。
「それにしても、相変わらず名付け親にべったりだね。音戯くん風に言うと、まるでぐりぐらみたいに仲が良い、かな」
「ぁン? どうだっていいんだよ、んなこと。アタシはテメェを、甲走透輝っつークソ野郎を殺したいだけなんだからさァ」
拳を固く握りしめ、重重は地を蹴った。
その足が駆ける度、辺には振動が響き渡り、地が抉れる。眼前の目的だけを見据え、猛進する重重の視界に一人の少女が横切る。
「よくわかんないけど、させないっての」
「邪魔だァ、小娘ェ」
「怪物パーンチ」
二人の咆哮と共に互いの拳が衝突した。――途端、怪物を称する少女の腕が吹き飛ばされた。
人体構造上曲がらないはずの方向へネジ曲がり、爆ぜた皮膚から鮮血が飛び散る。腕を構成する骨が捻転により砕かれ、理不尽に引っ張られた肩が歪んでいた。
片腕を失った少女は苦痛を浮かべながらも、もう片方の手を地面について崩れた体勢を落ち着かせる。息を吐く間もなく、重心を低く保ったそのままの姿勢で脚擊に転じる。
低空を横断する脚擊が足元を払うその前に、重重は上へと躱していた。重重の立っていた位置には小さなクレーターが残され、その窪みをか細い脚が通り過ぎる。
「どうやらテメェも後者だったっつーわけだな」
頭上から降り注ぐ冷徹な死刑宣告に少女は悲痛に空を見上げる。
片腕の機能を失い、反撃のために繰り出した脚もそのままに、上空から降り注ぐ脅威に抗うこともできずにまるで虫けらのように少女は踏み潰された。




