2-1 閑話3
誰もが夢見た未来予想図――、それは車が空を飛び、人間と肩を並べてロボットが街を立ち歩き、立体映像が景色を彩る。
どんな傷病も立ちどころに治り、電脳世界に染まり、化学兵器も生物兵器もおぞましいほどに進化を遂げている。
とある映画で描かれていた未来世界が、現実にその年代になったところで代わり映えしない現実が続くように、誰もが思い描いた夢世界は未だ訪れてはいない。
――いや、ただ一つの事柄においては訪れていた。
誰もが夢見た、超常たる存在が降臨したのだ。降って、溢れたと言ったほうがより正確だろうか。突如として超能力者は現れた。現れてしまった。
ある者は、空だけでなく空間をも跳び越えた。
ある者は、傷病はもちろん致命傷すら急速に治癒して見せた。
ある者は、電脳のみならず凡ゆる異空間へと赴くことができた。
そして、ある少女は、兵器など使わずとも全世界を崩壊せしめる力を持っていた。
――技術者は思った。人間にできることを機械でまかなう必要などあるのだろうか。
――研究者は考えた。既により有能な超能力者という研究対象がいるというのに、それに劣る対象を挙って研究する必要があるのだろうか。
そうして科学技術は低迷し、超能力を解明する研究が台頭した。誰もが夢見た姿に進化を遂げるには、まだまだ時間がかかることになるだろう。
昔ながらの格安ビジネスホテルは、そんな世の中で打ち捨てられた遺産の一つだ。
縦長に切り分けられた狭苦しい客室は、安さの限界にでも挑戦したのか驚く程に簡素に仕立て上げられていた。
サラリーマンの疲弊色に染まった部屋には、奥に面する窓際にベッド、木製のテーブルに、小ぢんまりとしたテレビが一台置かれているだけだ。
つけっぱなりのテレビの中ではアナウンサーが悲痛な表情で『首狩り』と呼ばれる猟奇殺人について報道していた。
――トン、トン、トタン。
室内にリズムを奏でる足音が鳴り響く。
足音の主、重重来来来は鼻歌すら聞こえてきそうなほど楽し気に足を踏み鳴らしていた。
歳のころは十代の後半を迎え、実に女性的なラインを発揮する彼女だが、返り血が目立たないようにという理由でセミロングの髪を赤黒く染め上げる、ぶっ飛んだ思考の持ち主だった。
服装は色の深い迷彩服に、指紋対策も兼ねてか特殊合成繊維製のグローブを愛用している。
「――なので、来来来さんにもお願いしたいのですよ」
来来来の耳元で、真紅のスマホが雇い主である少年の言葉を届ける。性別も判断できないほどの幼声は、未だに声変わりの兆しは見られない。
「あぁ、まあそれはいいけどさ。今はちょっと立て込んでんだよな」
――ダン、ダン、ダダン。
足踏みは次第に力強い音を響かせていく。
「すいません、取り込み中でしたか」
――ガツ、ガツ、ガツン。
リズムも取りづらくなってき足場で、新しいスパイクの踏み心地を確かめるように何度も何度も片足を上下させる。
来来来が足を上下する回数とともに、足音は鈍く変貌していく――ガッツ、ガッツ、グチャリ、と。
「そういえば、さきほどから何をしてるのですか?」
「あぁ、ちょっとしたゴミ掃除をな。復讐ともいうけれど。まあどっちでもいいし。あぁ、どうして人を殺すのってこんなに楽しいんだろうな」
「なんと言いますか。来来来さんは本当にねないこだれだのごとし恐ろしさですね」
物騒なことを漏らす来来来に、少年は少年で独特な言い回しで返す。
別段、恐怖も嫌悪の色も見られない淡々とした声色は、少年が一般とは異なる社会の住人であることを物語る。
つけっぱなしのテレビからは先ほどとは打って変わって、面白おかしく『現代に現れた第怪盗』という見出しに盛り上がっていた。
街を歩けば超能力者に出会うと言われる時代。世の中には今までの常識では考えられなかった事件が巻き起こっていた。




