モーニングコール
香織の姉、もとい青山香穂が給料を貯めに貯めて買った乗用車が、赤信号を前に停まった。
「おはようございまーす!」
後部左右のドアを開いて、二人の女生徒が飛び込んできた。
「! 美波ちゃん、美咲ちゃん!」
「すいません、私達も学校まで乗せてって下さーい」
「いやー、香穂さん今日もお美しい!」
「そ、そうかしら?」
香穂は頬を赤くした。
しかしそんな喧騒にも何ら構わず、香織は四度寝の真っ最中である。
「おっ、なんだこいつ。寝てやがる」
「良いご身分だな、この野郎」
――春川美波、秋野美咲。まるで双子の様に仲の良い、香織で遊ぶ事を生きがいとする二人組。
しかし、ただ双子の様に仲が良いだけで無く、二人の顔は本当に似ていた。時々見間違われてしまう程に。
「おらおら、起きろ」
「いっひっひ」
二人は香織の頬をつねったり叩いたり、鼻をつまんだり引っ張ったり。
「ぬう、こいつ起きやがらん」
「困った野郎だ」
香穂は、そんな様子を見ながら微笑んだ。
「着いたわよ」
程なくして、車は高校の校門前で停まった。
「ありがとうございましたーっ!」
美波と美咲は香織の頬を引っ叩きながら、死体の様な香織の体を引きずる様にして出て行った。
香穂の車が見えない所まで行ってしまってから、二人はアイコンタクトを取って意志の疎通を図る。
「起きろーっ!!」
べちん!! と痛々しい音を上げ、二人の張り手が香織の頬に炸裂した。
「痛あーっ!!」
流石に目を覚ましたその目元には薄っすらと涙すら浮かんでいる。
こうして、香織の脳内活性率は100%へと達するのだ。
「あ、美波。美咲。おはよう」
「おはようじゃねーよ」
「どんだけ寝てんだお前」
「わあ。もう学校?」
香織はキョロキョロと周囲を見渡した。
「お姉ちゃんにありがとうって言ってないや」
美波と美咲は、きょとんと目を丸くした。
「ううーん。やっぱわたしゃアンタ好きだわー」
「私もー」
二人は愛猫を撫でる様に、香織の首筋に腕を回した。
「な、何さ突然」
「いやいや、何となくよ」
「和むー」
そうして三人仲良く、朝の校門を潜っていった。
香織の、赤く腫れた頬を優しくさすりながら。