ある者は空にヤツを見た
彼は旅をしていた。この街は砂にはおおわれており傾いた日差しが厳しく日陰となるものもビルの日陰はあるがやはり空気が熱く環境は厳しいと言わざる負えない。しかし彼を殺そうとする機械がいない。少なくとも彼はまだ見たことがないため機械と戦う必要はなかった。だが食料が余り見つからないため飢えとの戦いは日に日に増している。
空腹を和らげるものがないかといつものように建物を漁る。しばらく漁っていると幸運にも缶詰をいくつか発見した。ランチョンミートの缶詰がいくつかと、フルーツの缶詰が一つ。彼はランチョンミートの缶詰を開けて遅めの朝食をとる。肉のうまみと塩気が空腹に染み渡り、缶詰の中身のひとかけらまで指ですくい口元に運ぶ。程よい満足感に満ち一息をつく。脂でよがれた指を服で拭い朝食を終え残った缶詰を持っていた袋に入れてまた歩く。
いつも、食料が見つかるかはともかくかなり長い期間はそうやって過ごしていた。
しかしそんな“いつも”とは少し違うところに気が付いた。何気ない一動作でふと見上げた時だ、空に小さな一つの点が飛び回っていることに気が付いた。
おそらく鳥なのだろう。鳥が飛んでいるのを見たのはずいぶんと久しぶりだったのでただ意味もなくその鳥を見上げ続けていた。
彼は鳥を見続けていた、すると驚くことにその鳥はこちらに降りてきたのだ。鳥は彼の近くのとまれそうな場所を探し道路横のフェンスにとまる。理由もわからずに彼はしばらく鳥の顔を見つめ続けた。
「オマエ、コトバ知ってるか?知ってるならヘンジしろ。」当たり前に続くはずの沈黙は鳥に話しかけられたことで破られた。
「ああ...知ってる、あんたは...その...いったいなんだ?」しばらく返事に時間がかかったが“ヒト”は一応の返事をした。だが彼は若干どころではなく混乱をしていた。なぜなら鳥はもちろんのことかなりの期間誰とも話をしていなかったからだ。
「トリだ、お前はヒトか?」と鳥は彼に質問する。鳥に主導権を握られながら進む会話ではあったが彼は特別違和感を感じることなく話を続ける。違和感を感じる感覚すら混乱していたのかもしれない。
「ああ...いや違うが、まあ...似たようなものだな。あんたも俺と似たようなものだよな鳥型。」彼は質問の内容を頭の中で反芻し回答する。
「フム、そうだなオマエもヒトガタなだけだな。アタマに余計なものがついているしな。」そういうと鳥型は羽をはばたかせヒトガタの頭についた“角の上”に乗った。
「角には乗らないでくれなんだかむずむずする。」ヒトガタは角にとまった鳥型を手で追い払う。追い払われた鳥型は再びフェンスにとまる。
「それでお前はいったい何の用だ?」ヒトガタは鳥型に問う。
「オマエ、オレの飼い主になれ。」常に会話の主導権を握っていた鳥型からは想像もつかなかった要求にヒトガタは驚くことになる。