ある者は使命を持ち旅をする
私はデータバンクのメモリーにアクセスをした。データの中から求めるものを探し出しメモリーを再生する。
メモリーを再生すると音声が流れ始める。
「これはユーゴ博士の個人ログである。」
メモリーの記録名を無機質な人工音声が淡々と語り終えると音声と映像が流れ始めた。
映像の中の人間は静かに調査の報告を語り始めた。
「数年前、蚊による感染症の被害拡大を防ぐためにレフラー研究所の開発した特殊駆除剤の広域散布が行われた。当時の期待通りに成果はすさまじく、散布の行われた地域では蚊の観測がされなくなった。良好な結果から散布地域が広げられることも決定し、現に様々な地域で散布されている。まさにこの結果は偉業と呼ぶにふさわしいだろう。」
「だが、その広域散布からしばらくして奇妙なことが起こった。厳密には起きたのではなく生れたのだ。それはあるへき地の村で見つかった。村の周辺でとれる珍しい蝶を昆虫学者が回収しており、特徴的な模様の蝶をいくつか生きたまま研究所へ持ち帰った。するとその蝶の中に非常に長寿なものが存在したのだ。私は昆虫に詳しくはないが蝶の寿命など長くてもせいぜい1年ほどだろう。しかしその蝶は5年間昆虫学者の研究ラボで生きていた。」
「それだけではない、他の地域では緑色の肌を持った豚や角の生えたサルなどが生れたとの報告があり、そのどちらもどこかの研究所が回収していったとの話もある。証拠はないがそのどこかの研究所とはレフラー研究所なのではと私は疑っている。」
「もちろん特殊駆除剤とこの奇妙な生き物たちの繋がりを示す証拠はない。しかし時期的に駆除剤散布後に奇妙の生き物たちは姿を現したのだから関係がないと思うほうがおかしいだろう。だから私は特殊駆除剤の詳細な情報開示を求めたがレフラー研究所からの回答はない。こうなれば少々強引な手で進むほうが良いのかもしれない。後は準備だ。録音終了。」
録音終了の声とともに映像の後ろの録画ボタンをおし画面が暗転する。
「以上でユーゴ博士の個人ログの再生を終了します。」
メモリ再生の冒頭の無機質な人工音声がまたも淡々と語りメモリーの再生が終了する。
私はメモリーの音声と映像を見終えると情報を整理し自分の使命を再確認しデータバンクとの接続を解除し次の目的地へと向かう。
人類のために。