機械と鳥は人のいた場所へ
「ホーンさんは自身でできた穴に落ちたのですよね?」
「アア、ソウだ」
アダムはトークに連れられホーンが落ちたという穴まで案内された。崩落をするような場所であったなら早期に救出を試みなければ生き埋めにされるリスクがありアダムは自らの記録収集を中断し落下現場まで来たのだが。
「穴とはこの穴で間違いないのですか?」
「アア、ソウだ」
「自力で登れたということでしょうか?」
「このアナを一人で登るのはムリだと思うゾ」
「困りましたね」
「アア、そうダナ」
ホーンがいるはずの場所には何もなく上から見た限りでは手がかりらしいものも見当たらない。
「トークさん、下におりてみて何か怪しいものがないか確認してはいただけませんか?私では落ちたら最後登るのが困難になってしまいますので」
「分かっタ」
アダムはトークが嘘を言っているなどとは当然判断しなかったが、いなくなったと言う事実に納得の行く証拠も見当たらなかったので、トークに下の調査を頼む。
これで何もないと言う事実が確認されたならいよいよホーンの蒸発という考えを視野にいれて考えなければいけない。
そこまでの考えを経てアダムの思考がわずかにストップした。協力者とはいえいなくなった場合致命的な問題は生じないはず。安否の確認が取れ合流できるならそれに越したこは当然ないが、できないならそれで大した問題はないのではないだろうか。
「おい、アナがあるぞ。」
「...そうですね、穴はありますよ。」
「ソウじゃない、穴のソコに横のアナがあるんだ。」
横に続く穴、とすればホーンは助けが来るのかわからない現状をどうにかしようと横穴に出口を求めたとでもいうのだろうか?いつ崩落するともわからない穴に入るなどと危険なことをしてしまったのだろうか。
「オレ、アナの中ススメそうだ。」
アダムは思考する、ホーンの生存や現在位置の確認のためには穴の中を探索することが必要だろう。しかし崩落の危険がある横穴の中にトークを活かせてしまってよいのだろうか。穴から上に登る方法がわからない以上下手に自分がおりるわけにもいかない。
そこまでの思考に居たりアダムは尋ねた。
「トークさん、あなたは危険を冒しても助けたいと思いますか。」
他者の命を自らの決断だけで危険な場所へ向かわせることはついに決断できず、トークに自らの決断を選ばせた。
「わからない、ケド必要なことダト思う。」
何をして必要という言葉を選んだのかはわからなかったが、トークがやる気であるのであろうと判断した。
「では、お願いします。私はここからあまり離れないようにしておきます。戻るか、あるいは出口を見つけたらそこからここに戻ってきてください。」
「行ってクル。」トークは穴の底におりるとその細い足でゆっくりと横穴に消えていく。それをアダムはただただ見守るほかなかった。