人は行く穴の先へ
本当に遅れて申し訳ありません、内容を詰めつつも書きたい物語が別で頭に浮かんだのでそっちを書いてました。(投稿はしていません)
どれほどの距離を進んだのだろうか。ホーンは屈みながら、時に這いながら細く小さくそして暗闇な穴を進んでいく。
進みづらい穴を屈みながら進む状況に疲れながらホーンは早くも自らの抱いた冒険心に後悔を感じ始めていた。
崩れる土の中にあった穴はとても魅惑的、誘惑的に感じていたがいざ進んでみれば終わりの分からぬ細道、そもそもとしてちゃんとした終着点すらわからぬ穴。どうして自分はそんな穴に入ってしまったのか。
悲しいことに細い穴であったがために戻ろうにも振り返り戻ることはできなかった。戻るのであれば暗さも相まってどれほど進んだかもわからなくなった道中を後方に戻らねばならず、それほどの苦労を感じるなら進めるところまで進んで区切りをつける方が良いようになると思い牛歩のごとき前進を続けている。
そのような前進であっても実を結ぶものであったようで、暗い穴の中がだんだんと見えるようになっていていた。この時ホーンは見えるようになったのを目が慣れたのではなく光のありかが近づいてきたのだと確信した。そして少しずつ明るさを強くなっていくことに少しずつ安心感とある種の喜びとを感じていた。
ホーンは逸る気持ちをそのままに少しでも早く光のもとに行こうと急ぐ。
急ぎ急ぎに進み急に体が軽くなる。そして体がひっくり返り背中を打つ。
「で、出口か...?」胸の痛みとともに肺の空気がすべて吐き出される苦しみとともにホーンは空気だけでなく言葉を吐き出した。
倒れたままの姿勢で地面に寝そべりながらあたりを見回す、相変わらずあたり一面土の茶一色ではあったが這って移動していた時に比べ周囲が広い様子であった。ホーンはゆっくりと立ち上がり伸びをする。
腕を目いっぱい伸ばし両手を広げ腰を回す、狭い場に長くいた閉塞感からの解放を体中で感じ固まった手足をほぐしてゆく。
周囲の状況から判断すれば背中を打つ衝撃を感じたときに思った出口への期待はまさに的中だったのだろう、横を少し向けば広い穴に続きがありその先からわずかなしかし細穴にいる時に感じた明るさとは違い確実に強い光が見えていた。闇になれた目には光の感覚が少々つらかったものの、先ほどの終わりなき前進に比べれば大したものではなかった。
ホーンは光に向かって走っていく、この時のホーンの心はほぼ無意識的に走るという選択を取っていた。それほど狭い暗闇の中での移動は苦痛だったのだろう。まさに誘蛾灯につられる虫のようにホーンはまっすぐ迷いなく走っていったのだ。
そしてついにようやくホーンは穴の出口に着いた。
光に包まれる安心感に包まれながら、ホーンは目の前の風景をぼんやりと眺める。
穴はつながっていたのだ、初めに都市で眺めていた大穴に、つまり光の正体は美しき太陽の光だったようだ。結果として穴の中で感じた確信は正しかったのだろう。
上から見た大穴はどかか非現実的な景色に感じたが、中から眺めた大穴は幻想的な景色に見えた。
大穴が開いたときに落ちてきたと思われる建物の残骸、年月によるものなのか時折吹く砂嵐の所為なのか残骸は砂により土気に染まり、音のない穴の中は遠くに吹く小風すら音すら耳に届けてくれる。
そして大穴の中心には一本の木が生えていた。細り弱った灌木ではなく、そびえ立つように育った大きな喬木が一つ生えていた。その姿は大穴の幻想をより美しくするようにそこに鎮座していた。
ホーンは大穴の遠くそびえる樹木にゆっくりと、知らずのうちにただゆっくりと引き込まれるように歩いていく。
ゆっくりと進むにはそれなりの距離であったにもかかわらずホーンはかけた時間のほとんどを感じず気がつけば樹木は目の前にあった。
ホーンは樹木にゆっくりと手を重ねる、これもまた無意識的に行ったことであった。ゴツゴツとした木の感触、手はそっと木をなでた。
「久々に見た気がするな、こんな青々とした木を見たのは。」
実際人が似なくなってからの数十年で環境は大きく変わっていたこれほど美しい木は確かにほとんどいる機会を失われていたのだ。ホーンはしばらくじっと木に触れ自然を感じるためにその時間を使った。
「うむ、誰かそこにいるのか」唐突にどこからか声がした。かすれた声しわがれ弱ったような声がした。
ホーンは慌てて身構える、急な声であったためどこからしたのかが気づくことができなかった。
「そう慌てなさんな。」再び声がした。ホーンはその声のありかを探るために慎重に聞き音のありかを見出した。木から声がしていた。あり得ないとは思いつつもどれだけあたりを確認しても人影やスピーカーの類は見当たらなかった。
「お前が話して...いるの...か?」あたりを見回しても木しか見当たらない。まさかとは思ったもののホーンは恐る恐る慎重に尋ねたのだった。