何故、妹は姉をざまぁするに至ったか⑥
ウーログと婚約するからと出会って私はお姉様の事をどうにかしなきゃって思いももちろん強いのだけれども、ウーログの事を考える時間が多くなった。
今までこのカプラッド公爵邸しかほとんど知らなかった私にとって、ウーログは新しい刺激だった。それに……正直、私としてみれば不服なのだけど、私は一度会っただけでウーログに惹かれてしまっていた。
お姉様は、デル兄様に一目ぼれしたと言っていた。それが始まり。そこから仲良くなって、互いに仲の良い婚約者になった。――でも、お姉様はああなってしまった。
……私がウーログに一目ぼれをしてしまったのは事実だけれども、それでもその一目ぼれをしてしまったこの淡い気持ちが、惹かれている気持ちが……いつか消えてしまう可能性も高いのだ。それを思うと、ウーログに近づくのは怖いとさえ思う。
お母様が亡くならず、お姉様が変わらなければ私はこんな風な恐れを抱く事はなかったと思う。でも、今は恐れを抱いている。だからこそ、一目ぼれをして、ウーログが私に対して好意を抱いていたとしてもそれを私は信じない。それが、ずっと続くことが出会ったばかりというのもあって信じられない。
いつか、婚約者でなくなるかもしれない未来を考えながらウーログと接しようなどと考えていた。
婚約者とは仲良くする。仲良くしたいというのは私の本心。私は惹かれている。でも、いつか、駄目になった場合の事もきちんと考えるのだ。
その方が、もし駄目になった時のショックが小さくなるだろうから。そう考えるとデル兄様の事を思って、胸が苦しくなる。デル兄様は、お姉様の事を大切にしていた。お姉様の事を思ってた。お姉様の事をちゃんと見ていた。だけど、お姉様は変わってしまった。大切にしなくなった。思わなくなった。――見なくなった。それはどれだけ辛い事だろうか。考えるだけで胸が痛む。私もお姉様が私を見なくなって悲しかったけれど、お姉様の事を好きで、大切にしていたデル兄様はもっとつらいのではないかと思う。だからこそ、私はデル兄様にも、私が悲しい事を見せない。私よりも悲しいだろうデル兄様にそういう所を見せたくない。それにお姉様もああなのに、私がデル兄様に心配されるような真似はしたくないのだ。
それにしても、お姉様はどうやったら戻るのだろうか。お姉様は何を思っているのだろうか。どうしたら私を見てくれるだろうか。この二年、ずっとずっと考えていた事に対する答えは一切でない。私はお姉様を戻す事は出来ないのだろうか。お姉様はこれからもずっと――私の事を、どうでもいいものを見るような目で見るのだろうか。ちゃんと、私自身を見ないのだろうか。
そう思うと、胸が苦しい。悲しい。
もし、ずっとこうならとどうしても時々悪い方向に考えてしまう。
――でも、私はお姉様に私を見てほしい。ちゃんと、私を――見てほしい。お姉様が大好きだから。昔のお姉様との思い出が大切だから。
決意を固める私は、答えが出ないままに婚約者であるウーログとの交流を深めていく。
「イエルノは――」
ウーログは、いつもニコニコしている。私の事を見て、嬉しそうに顔を破顔させる。その笑みを見ていると、どこか落ち着いた。出会ってまだ少しなのに、ウーログと過ごしている時は、お姉様の事を考えずに済んだ。
お姉様を元に戻すために利用しようと考えていたのに、純粋に私の事を見つめているウーログに、そういう気持ちが失せていく。
そうだ、ウーログは”私”を見てる。それは人によっては当たり前の事かもしれないけれど、私の事をちゃんと見て、私の事を知っていこうとしてくれるウーログに、私は嬉しかった。
お姉様が私の事を見ないからこそ、余計に。
「ウーログは……、いつもにこにこしてるわね」
「イエルノにあえて嬉しいから」
「……そういう恥ずかしい事も、はっきり言う」
「だって、イエルノ可愛いからね」
「……っ」
恥ずかしい。恥ずかしいけれど、はっきりそういってにこにこと笑うウーログに赤面する。
「僕、絵姿見た時からイエルノの事気になってたからね。実物はもっと可愛いから、僕はイエルノが婚約者で嬉しいよ」
ああ、恥ずかしい。
ウーログはどうしてにこにこしているのか聞いたら、さらっとそんなことを言うのだ。
元から私に対して好意的だったのは、私の絵姿を気に入っていたからだと。見た目から気に入って、そして実物を気に入ってくれたと。――そういう好意は嬉しい。でも嬉しいからこそ、いつか失った時の事を思うと、私も、とは返せなかった。
でも私が返さなくても、ウーログは気分を害した様子もなくにこにこと笑っていた。ウーログは、私と同じ年なのに私よりもずっとずっと、大人なように感じられた。